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現象学女子〈39〉マシンガントークは止められん

 金井君のいわゆるこれが鳩が豆鉄砲食らったような顔を見て、私は大丈夫だろうかと反省する。女子の見せてはいけない部分を見せてはいまいか今の会話を反芻したが、大丈夫なはずだ。我々は今、非常に学術的で硬派な話しをしている…はずである!ただここまで話しを進めてしまったらもう少し注釈を入れないと気が済まないので私はまた続けた。

 「今、結婚を生存戦略なのか恋愛の延長なのかっていう2択で言ったけど。実際はそんなくっきりなんて分かれてないはずだわ。物事って言うのは大体グラデーションになってる方がほとんどだし。だから条件だけの打算的な結婚もすべて理想通りの結婚もどちらだけって言うのはあまりないはずなのよ」

 「まあそうよね、実際は生存戦略のパートナーであり、恋人であって、その比重が人によって、あるいは一緒にいる時間によって変わるって言うのがリアルかもね」と福田さんがうなずく。おそらく彼女の価値観にもっとも近いところまで来ているのだろう。

 「つまりあるときは相手の個性が好きだったりあるときはその個性が長所だったりしながらともに生きていけるならそれが一番幸せな気がするのよ。やばいのは個性が好きから嫌いになったり長所が短所に見えて来ちゃうと危ないかもしれないけど。こればっかりはその時になってみないとわからないからね」

 「やっぱなんだかんだ言って離婚する人も多いからねえ。こういう風に価値観が変わっちゃうと一緒にいるのが苦痛になるのかね。どうにかならないもんかしらね」とみるくはまるで自分がいつか離婚することが決まっているかのような口ぶりである。

 「そうね。さっきみるく自身が言ってたけど、結婚すること自体をお互いの目的にしてしまうのは危ないわ。重要なのは結婚後の生活なのに、結婚というステータスを手に入れるためにお互いがお互いを合わせ合うことで相性がいいような錯覚に陥ってしまうことね」

 「なるほど。ゴールを達成した瞬間合わせる意味がなくなっちゃったら本末転倒ね。でもやっぱり話が戻るけど焦ってたら冷静に判断できる自信がないわ」とみるく。

 「まあ、確かに完璧は無理かもしれないわ。でもとにかく自分の自然と湧き上がる気持ちが相手と合っているのがベストで、結婚を目的とした結果生まれた意識で相手に合わせているなら注意が必要ね。少なくともその自覚はしておくべきだと思うわ。でも同じことだけどその自覚というのが焦りによって見えなくなるというのはあるので、どこまで行っても絶対幸せになれる結婚なんて存在しないと腹をくくることも大事かもね。もう最後は覚悟よ。覚悟」

 「なるほど。そういう気構えはあった方がいいかも。相手のせいにしてたらいつまでも幸せになれないもんね」と松井さん。

 ここで会話が止まった。女子のマシンガントークは止められん。ふと金井君を4人で見る。そしたら金井君が

 「気を付けます…」とぼそっと言った。何を気を付けるのかわからないが、彼は今、男性代表の重責を担わされている。人数的に圧倒的に不利なこの状況で絞り出した答えがこれだったみたい…

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