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現象学女子〈38〉結婚と現象学

 「なるほど、結婚を生存戦略上のパートナーとして見た瞬間に今まで何とも思わなかった人が、違うように見えるのかもね」と福田さんが言った。

 「あそうそう。ギターとハンマーの例えで言いたかったことはそういうことよ。別にどっちで選んでもいいのよ。でも結婚したいと思ってる時に、いい条件の相手が見つかったとして、例えばその人が仕事ばかりしていることを仕事熱心 自己主張が強いことを自分の意見を持っているみたいに、その人のただの個性を長所として見てしまうと、それが結婚する前はそこを長所と捉えて自分を納得させてたのが、結婚した瞬間、仕事熱心が家庭を顧みないとか、自己主張が強いことを相手の意見を聞かない、に変わっちゃったりするのよ」

 「つまり生存戦略上で選んだときは魅力的だったのが恋愛の延長で見た瞬間にその人が変わったように見えるのは、実はその人が変わったんじゃなくて自分の見方が変わったってことなのね。だんだんわかってきたわ」と松井さんが言った。松井さんに理解されたのでなんかうれしい。

 「そうよ!それなのにあなたは変わった。もうやっていけないとか言う人ってたまにいるでしょ。それは自分の見方が変わっただけなのよ」と私は言って、

 「つまり個性を長所として解釈している時点で、相手を生存戦略上のパートナーとして見ているとも言えるわね。私もわかってきたわ。ギターとして見えてるかハンマーとして見えているか、とうつつちゃんが言った意味が。個性が『長所』という『意味』として自分に現れているということは、自分はそういう状態なんだって言えそうね」とかぶせ気味に福田さんが入ってくる。女子は話し出したら止まらないのだ。

 「要は長所だろうが短所だろうがその人の個性を好きかどうか、あるいは、自分の感性と合うとか一緒にいて楽しいとか、つまり相性がいいかどうかのほうが恋愛としては重要だもんね。つまり個性が『好き』という感覚で自分が認識できているか『長所』という評価として認識しているのかは大きな違いね。でも結婚に焦ってたら好きって思っちゃうんだろうなあ」とみるくも参戦。こいつは意外と悲観的だな。慎重とも言えるか。この発言も私の見方次第だ。

 「そうね。焦ってると大抵結果はよくないわね。だって焦ってるから。でも焦ってる時に焦ってると判断するのはけっこう難しいかもね。だから自分が焦ってるかどうかの視点は常に持っているのも悪くないわ。焦ってるとわかったらその時点で重要な決断はしない方がいいわね。でも焦ってるから重要な決断をしてしまうとも言えちゃうのよね~困ったわ~」そう私は言って金井君を見たらポカンとしていた。

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