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〈46〉価値

 とにかく西崎君の地位は芦原君の媚びへつらいによって担保されている。まるで通貨の信用度のようだ。この程度の信用などいつデフォルトするかわからない危うさがあるが、それでもこれにより西崎君と近いということがそれだけ自分を高く認識できる根拠にはなっているようである。

 というのも2年生の時、修学旅行とは別に移動教室というスキーを習う2泊3日の行事があり、その当時同じ部屋になった子たちが妃願望アホ女子と西崎グループ女子で半数を占めたことがある。

 というわけで消灯後、案の定恋愛話しになり芦原、西崎と直接やりとりしたことがあると言った、ちょっとした自慢大会のようなものが行われた。

 私は一応話を聞く姿勢だけは見せて、芦原、西崎とどういったやりとりをしたことがあるのかという、大貧民のカードの切りあいのような話を聞く羽目になった。

 メッセージのやり取りから始まり、文字ではなく電話をしたことがあるという肉声でのやりとりで、さらに自分の方が近いという自慢から、直接二人で話したことがあるなど、女特有の婉曲的なひけらかし方をしながら、

 「うそ~」などとくだらない冷やかしでその場を盛り上げつつ、自身の嫉妬の炎はどんどん燃やしていくのが手に取るようにわかるので、もうそこはちょっとした地獄である。

 しかしそこに参加している以上、私は彼女らの自尊心の充足に努めなければならなかったので、話の流れに応じて表情だけは驚いた風や、面白そうな顔や、キュンとしている感じを出してはいた。

 そして今考えれば頃合いを伺っていたのであろう、西崎グループの女子の一人が大貧民で言えばジョーカーの

 「私、西崎の好きな子知ってるから~」を切ってきたのである!

 「誰?誰?」と言われるが、言えないの一点張り(もちろん全員がだったら言うなよカスと思っていたに違いない)。この自分だけが西崎君の好きな子を知っているということに価値があるという感覚が人間の人間たる所以であろうから、そりゃ言ったら自分の価値がなくなるわなと思うわけである。

 しかしそこにいるアホ女子たちは

 「え~いいなあ、知りた~い」など普段女子には向けないような意図的としか思えない甘ったるい声であくまで表面的な敗北を演じていた。

 西崎グループの女子は西崎君は友達で恋愛対象として見ないことが、西崎君にあこがれている女子よりまた一つ上のステージに立ってる意識につながるらしく、先の好きな子知ってる発言のように、ここぞとばかりに西崎君と「対等感」を表現しこちらもこちらで自己顕示欲を満たしているようだった。

 だが繰り返すが通貨と言うのは国の信用があって価値があるのである。

 しかし彼らには本当にその価値があるのだろうか?

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