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それぞれの家族の『言い訳』で創られた八つの物語 森浩美さんの『家族の言い訳』を読んで思ったこと

こんにちは、ミルク(candy@)です。

長編小説もいいけれど

ちょっと息抜きしたいときの読書には、私は短編集を選んで読むことが多い。

森浩美さんの短編集
『家族の言い訳』を読んだ。

彼の作品を読むのは初めてだ。(作者を女性だと思っていました😅)

『家族の言い訳』には
八つのお話がある。

夫と妻、母と息子、母と娘など、どの作品もあなたのまわりでも存在するような家族のちょっと切なくて、心温まる物語が描かれている。

その中でも私が特に印象に残った話

『乾いた声でも』の感想を書いてみたい。

『乾いた声でも』は40代の夫婦の話だ。

主人公の由季子の夫は40代という若さで くも膜下出血で深夜の残業中に会社で倒れて そのまま呆気なく亡くなってしまう。

後に残されたのは専業主婦の由季子と9歳と6歳の息子たち。

実は由季子と夫はある頃から不仲になっていた。

かつて宣伝部でCMを担当し

ヒットCMを連発して
生き生きと働いていた夫は
天狗になっていた時期もあり
CMに出演したモデルと浮気したことも一度や二度ではない。

浮気だけでなく、
CM撮影で海外へ同行したりと多忙を理由に
家事どころか子育てにも
家族のことにも協力的でない夫に対して
由季子はいつしか冷めた視線を送るようになっていた。

由季子の周りの友人たちも

『結婚して10年以上も経てば夫婦なんてこんなものよ』と友人たちが諦めているのを
由希子も受け入れながらも
夫と顔を合わせれば嫌味を言ったり、お互いに言い争いや衝突の日々だった。

ある時、社内の権力争いのゴタゴタに巻き込まれ
宣伝部から人事部に異動させられた夫は
会社の業績不振を理由に
そこでリストラを断行するように命じられる。

不慣れな仕事と自分よりも役職が上の人のリストラ勧告を命じられ
夫はストレスもマックスだったのだろう。

しかし由季子は夫が部署の異動でイライラしていることに気づきながらも
夫に優しい言葉をかけれなかった。

そんな時に由希子は夫の突然の死に遭遇する。

由季子は過去の夫の不貞や

多忙を理由に家族を蔑ろにされたという憎しみから
夫の死を悲しむ気持ちになれない冷めた自分を感じていた。


四十九日も過ぎた頃
弔問に訪れた夫の懇意にしていた会社の先輩から
夫には他社の宣伝部の転職話があったことを聞かされて
由季子は驚く。

転職話のことなど、由季子は何も夫から聞かされてなかったから



ただ、他社の宣伝部に転職すれば給料が下がるので
夫は転職話を断ったらしい。

夫が亡くなる4年前に由季子の切なる希望で
少し無理をして予算よりも高額なマンションを購入して
多額のローン返済もあり
私立受験(これも由季子の意向だった)を目指す息子たちにもお金がかかると思ったのか
夫は今の会社に残ることを決めたようだった。

浮気を疑っていた夫の女性部下からは夫が亡くなってから
『二人の間には何もなかった』と彼女に言われ由季子の思い過ごしだったと判明する。

浮気を疑っていた部下の彼女からはどれほど夫が会社で辛い立場にいながらも仕事に熱心だったのかを告げられて由季子は愕然とする。


皮肉なことに夫が亡くなってから、妻の由季子は自分が想像していた夫と違う夫の顔を知ることになる。

『私の知らない夫・・・』


責める気持ちや疑う気持ちはすぐ手の届く棚にあるのに、
思いやりや楽しかった記憶は特別な踏み台を使わなければ届かないような棚の上に、いつの間にか追いやってしまっていたのかもしれない。

(本文抜粋)

『夫はどうして弱音を吐いてくれなかったのだろう?』

『夫はどうして言い訳してでも
自分の好きなやりたい仕事ができる道を選んでくれなかったのだろう?』

『もし夫がそうしてくれていたら、結果は違ったものになっていたのだろうか?』

『どんなに悔やんでも今となってはどうにもならないけれど・・・』

由季子は夫の悩みに気付けなかった、いや気付こうとしなかった。


不本意な異動やキツイ仕事の数々。

妻からの冷たい視線を感じながら

曲がりくねった道を一人で必死に走っていた夫に

『あなたは好きな道を走ればいいのよ』

と言ってあげれていたら
夫はなんと答えただろう?

それがたとえカーナビのように乾いた味気ない声であっても
もしかしたら妻のその一言で夫の本音を聞けたかもしれなかったのに。


人生に、もしカーナビが付いていて目的地への行き方を教えてくれたら道に迷うこともないのだろうか。

でも目的地は家族であってもいつも同じとは限らない。

もしも自分が行きたい目的地と家族の目的地が離れて行っていると感じたら
その時は少し立ち止まって
勇気がいることかもしれないが
家族に話してみればいいのかな。


もし方向転換することも必要なら「言い訳」だと言われても
そのまま無理して進まなくてもいいんじゃないのか。


確かにどんなに大切で愛する家族であっても

しょっちゅう言い訳を聞かされたらたまったものではない。

けれども

自分や家族が本当に苦しい時、辛い時なら

家族に「言い訳」を言えたり

家族から「言い訳」を言われたり

そしてその「言い訳」を受け入れたり

受け入れてもらったり

そんな「言い訳」を許してくれる家族の存在って大きい。

あなたの「言い訳」を笑って許して聞いてくれる家族がいれば大丈夫

何も恐くない。

この小説を読んでそんなことを感じました。

あなたは「言い訳」を家族に言えますか?

「言い訳」を家族が言った時、心と耳を傾けられますか?

作者からそんなことを問いかけられた気がしました。

最後までお読みいただきありがとうございます。
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