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直木賞を獲れなかった男

2016年にボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞した時「反対ではないけど先にもらうべき人がいたのでは」と思いました。ポール・オースターやコーマック・マッカーシー、翌年受賞したカズオ・イシグロ、そして村上春樹など。

同じことを今回の直木賞候補にも思いました。たとえば加藤シゲアキ。私は割と好きです。特に処女作の「ピンクとグレー」をオススメします。文体に時折顔を覗かせる背伸び感が新鮮で(又吉直樹「火花」の冒頭にも言えること)、彼だから書ける風景と空気感を存分に味わえました。「オルタネート」の評判は上々だし、受賞もあるかもしれません。

と同時に「なぜ小野寺史宜は今回も候補にならなかったのか?」と首をひねりました。さらに「なぜ伊坂幸太郎や伊東潤は獲れなかったのか?」と考えました。伊東潤の「王になろうとした男」は傑作です。歴史の陰に埋もれたマイナーな武将を史料に即した骨太なタッチで描く短編集。特に毛利新介の話が素晴らしかったです。

毛利新介とは誰か? 私は小学校に入る前から知っていました。子ども向けの「織田信長」の伝記で、今川義元の首を獲った人間として彼の名前が書かれていたのです(義元に一番槍をつけたのに反撃されて膝を斬られた服部小平太も覚えています)。だから不思議と懐かしかったです。そしてたまにはこういう我々に近い目線の主人公で大河ドラマをやって欲しいと思いました。

伊坂幸太郎は五回候補になったけど獲れなくて、結局選考を辞退すると宣言したんですよね。「重力ピエロ」でも「死神の精度」でも「砂漠」でも駄目なんて、ちょっと不公平過ぎませんか? 阿部和重との共著「キャプテン・サンダーボルト」でワンチャンあるかと思いましたが候補にもなりませんでした。阿部氏は「グランド・フィナーレ」で芥川賞を獲っていますから、もし直木賞も獲ったらえらいことになっていたのですが。

結局ああいうのって実力よりもタイミングとか運の世界なのかな? とはいえ、実力がなければ運の巡ってくる余地すらならないのも確かです。さて、今回はどうなることか。


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