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「信じる」の正体に気づける一冊

寒い日が続きますね。

こういうときは考え方を変えて「いまの季節だからこそ楽しめるもの」へ意識を向けます。スキーやスノーボードを楽しむのもアリですし、鍋や焼き芋もいいですよね。

私の場合は、まず音楽。冬といえば↓です。公式でもフルコーラスでもないのですが、画質が美しいので紹介させてください。

昔この曲をカラオケで歌ったら唐突に「採点システム」がスタートして焦ったことがあります。結果は64点。ちなみに友人たちは当たり前のように90点台でした。。。

さて、本にも「冬の定番」があります。特に絵本や文庫本に多いかも。自分の中で新たに仲間入りを果たした一冊が↓です。

著者はポール・オースターで訳は柴田元幸さん。絵はタダジュンさんです。オースターが脚本を書いた映画「スモーク」の原作とのこと。

この本を読んで考えたのは「真実」とか「事実」というものの意味です。しばしば「虚構」や「創作」と対比されます。

たしかに現実に起きたこととそうではないことの間には厳密な一線が存在します。意図的にそこをぼかすことで効果を上げる作品もありますが、最終的にはキレイに二分化される。最後まで曖昧だと受け取る側も不安になりますから。本当にあったことだと「笑うのは不謹慎かな?」とかいろいろ考えてしまうのです。

ただ一方でこういう解釈も成り立ちます。「信じる人がひとりでもいるのなら、それはその人にとって真実である」と(もちろん歴史的事実の歪曲や陰謀論の是非はまた別の話)。村上春樹さんのファンなら「1Q84」の冒頭で引用されている「イッツ・オンリー・ア・ペーパームーン」の歌詞を思い出すかもしれません。

ここは見世物の世界 何から何までつくりもの でも私を信じてくれたなら すべて本物になる

春樹さんや河合隼雄さんのエッセイを読むと、しばしば「物語の力」というフレーズが出てきます。ある種のメッセージは、直接的な言葉で伝えるよりも物語の中に落とし込む方がより読み手に染み渡ると。

たとえば「いじめは良くない」や「戦争をやめよう」は100%の正解。でもそれを言ってもいじめや戦争はなくなりません。必要なのは「じゃあいじめや戦争をなくすにはどうしたらいいか?」と考えること。その意欲を喚起し、且つ言葉に換えると何かが失われてしまう重要なものを純度を保ったまま心の奥へ届ける。これが物語の持つ不思議な力だと思うのです。

以前も書きましたが、私は夏目漱石「坊っちゃん」が大好きです。全世界の人間があれを読んだら世の中は確実にいまよりも良くなるはず。本書にもよく似た力を感じました。

冬はいずれ終わり、春が必ず訪れる。だからこそ大切なのは未来を「信じる」こと。そして「信じる」とは思考停止して諦めたり盲目的に誰かや何かへ委ねたりすることなく、様々な物語に触れ、そこから自発的に「真実」を拾い集めていくこと。その地道な積み重ねが己を、さらには社会を少しずつ変えていくのではないでしょうか? 

64点の拙いレビューでした。でも本は100点満点です。ぜひ。

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