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4月13日から始まる「フェア」に加えたい2冊

発売日が近付いてきました。

多くの書店がこれに合わせ、春樹さんの著作を大きく展開するはず。従業員としてもイチファンとしても楽しみです。

一方で、普段から文庫の代表作を平積みしている店だと、お客さんにとって新鮮味がないかもしれない。特に版元の提案するフェアや本部の機械的な一括注文に頼ると、どうしても無難なラインナップに落ち着きがちです。

ならば「春樹さんが書いたり訳したりしたわけじゃないけど、ゆるやかに関連している書籍」をそこへ加えてもいいのでは? そんなことを考えていたら2冊の本が頭に浮かびました。

1冊目は↓です。

イラストレーターの和田誠さんと安西水丸さんの共著です。互いの言葉をしりとりのように繋いでリレーし、交互に書き綴ったエッセイ集。しかも双方が相手の文章に絵をつけています。

まず表紙とタイトルのフックが半端ない。普通に「ん?」となりますよね。まえがきとあとがきで紹介されていますが、この題を考えたのが他ならぬ春樹さんなのです。だからというわけでもないでしょうが「村上ラヂオ」三部作や「村上朝日堂」シリーズに近い、いい意味で何も残らぬ穏やかな空気が漂っています。

休日の暇な時間にのんびり読むのに最適な文庫本。一方で文体と雰囲気にカムフラージュされていますが、綴られたエピソードの中には「こんなことがあっていいのか」という理不尽極まりない体験談もあります。私ならずっと根に持っているかもしれない。しかし両者とも実にあっけらかんとしているのです。「もう済んだことだよ」みたいな。

人生の達人にして飾らぬ粋人。あらゆる囚われとは無縁のサラサラ感に、その境地の一端を垣間見た気がしました。

もう1冊は↓です。

著者のジェイ・ルービンは春樹さんの「ノルウェイの森」「ねじまき鳥クロニクル」「1Q84」などを翻訳した人です。夏目漱石の「三四郎」や「坑夫」の訳でも知られています。

後半は翻訳論や検閲の歴史などに触れていて、また違った読み応えがあります。前半はタイトル通りで、春樹さんとの数々のエピソードを楽しめました。「村上の描くハンバーグ・ステーキとヨーグルトとトマト・ケチャップは、彼を現代生活の詩人にしてきた」なんてユニークな分析をしつつ、彼の一連の作品と日本の古典文学の関連性を探る視点も忘れない。

春樹さんのルーツは海外文学にあると評されています。しかし彼は若い頃、漱石の全集を奥さんから借りて読んでいます。芥川龍之介の短編集に序文も書いている。そういう角度から見ていくと、世間が提示する画一的なイメージとは異なる「個人的春樹像」が自分の中で育まれる。私にそのきっかけをくれた本のひとつが「村上春樹と私」でした。

4月13日発売の新刊と併せて、上記の2冊もぜひ。

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