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末端の書店員が「世界的ベストセラー」を読んで考えたこと

↓を読了しました。

世界的なベストセラーです。日本だけでも450万部突破とか。

100ページに満たないのですぐ読めます。しかも値段は税込922円。このお手軽さが人気の一因かもしれません。

かつては山のようにあったチーズ。勤勉な努力を重ね、やっと見つけることができた自分だけのチーズ。もしそれがなくなったら? 

登場するキャラクターは二匹のネズミと二人の小人。各々が各々の考えを巡らします。ただ大前提として、全員がチーズを手にすることにこだわっている。

そこに疑問を覚えました。

なぜチーズじゃなければいけないのか? もっと栄養価が高くて美味しく、すぐ得られるものがあるかもしれないのに。

末端の非正規書店員である我が身へ落とし込むなら「なぜ紙の本じゃなければいけないのか?」「もっと粗利が良くて需要もあり、すぐ売れる商材があるかもしれないのに」でしょうか。

電子書籍が全能とは思いません。しかしたとえば付録やアイドルの表紙で命脈を保つファッション誌を見ると「本誌は電子でいいのでは?」となります。書店では付録と表紙、そして本誌をダウンロードするためのQRコードを販売するだけでいいかもしれない。挟み込む負担がなくなり、送料や紙を節約できます。

本の利益率は約2割。すぐにどうにかできないのなら、関連性の高い商材でカバーする。カレーの料理書とルー、メイク本と化粧品の併売、読書のお伴に最適な駄菓子をレジ横に置くなどがすでにおこなわれています。

オリジナルのトートバッグやTシャツ、ブックカバーも定番です。パーカーやキャップ、ネックウォーマーもありかと。従業員が着てレジに立てば販売を促進できます。

一方で「いや俺はチーズがいいんだ」という人もいるはず。実は私もそのひとりです。

ではどうするか?

1、未知のチーズを探す=あまり知られていない名著を見つけて仕入れる。

2、自分たちでチーズを作る=書店主導の出版。青山ブックセンターが「発酵する日本」を出したように。現役書店員ならではのお仕事エッセイや業界への提言を綴った本にも需要がありそう。

「チーズはどこへ消えた?」のキーワードは「変化」です。しかし殊更に変わることを是とするよりは、変えたくないものを守るために変わる。その方が日本人のメンタリティには受け入れやすい気がします。

新しい商材を扱う、新刊を仕入れる。それだけではなく、専門書店として「○○に関しては、ウチの選書はどこにも負けない」というジャンルを持つ。そのためには、いままであった棚をなくしてもいい。

ヒントになった本があります。

東京都大田区上池台の商店街の一角にある「wagashi asobi」さんは「ドライフルーツの羊羹」と「ハーブのらくがん」の2品しか置いていません。だからこそ作り手の意識が集中し、製造技術や品質の向上を図れる。他では買えないからお客さんが何度も来てくれる。

和菓子とは異なり、書籍は同じ人が同じものを複数回買うことは殆どありません。でも中規模のワンフロア書店にも、この発想は応用できます。置く本の数を絞る。声の大きな面陳や平積みも蔑ろにしないけど、お客さんに「自分を待っていた」と感じてもらえる棚差しの1冊に力を注ぐ。

「より多く大きく」を否定せず「より少なく小さく」と共存させる。目的買い、トレンド重視の人とまだ見ぬ己との出会いや救いを求めて来た人がどちらも満たされるように。

ぜひ「チーズは~」を読み、仕事や日常へ活用してみてください。ご購入はお近くの書店にて。

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