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2021年「暑い夏」を「熱く乗り切る」三冊

東京五輪、盛り上がってますね。

と言いつつ、私は見ていません。コロナとは関係なく、今回の五輪にはいろいろと思うところがあるから。

もちろん観戦して楽しんでいる人のことを悪く思ってはいません。一流のアスリートが見せる奇跡のようなプレーに感動し、勇気をもらったことは一度や二度ではないですから。スポーツって素晴らしいですよね。私はスポーツが大好きですし、本と同じくらいスポーツの力を信じています。

こういう人間なので、選手に密着した「スポーツノンフィクション」は大好物。特に何度も読んだのは沢木耕太郎「一瞬の夏」です。ボクシング興行の裏側や選手たちの仕事や食事、そしてギャラに関する生々しい話は時代が違うとはいえ、とても勉強になりました。自然と頭も下がります。ボクサーってこんな大変な苦労をして試合に臨んでいるのか、と。

あと当たり前ですが、スポーツには勝者もいれば敗者もいます。我々ファンはどうしても勝者の輝きばかりに目を奪われますが、実は敗者に纏わる話から学べることの方がはるかに多いのです。テレビや新聞がスルーする敗れた者たち、いや「敗れざる者たち」(沢木さんはこういう題の本も書いていて、しかも登場人物が↓と被っています)の魂の物語をぜひ。

ボクシングのノンフィクションだと山本草介「一八〇秒の熱量」も傑作でした。年齢制限による引退制度があることを知らなかったのですが、王座を獲得すれば回避できるというのも衝撃でした。しかも主人公は「人を殴るのが嫌い」と公言する36歳。近眼。夜勤の契約社員。プロデビューは33歳。ツッコミどころが多過ぎますよね。なぜボクシングを、と。

でも読んでいくうちに胸の中で炎が燃え上がってきます。道は違えどこんな生き方をしてみたい、できるはずだという不思議なエネルギーがふつふつと沸いてきます。日々の活力チャージにオススメです。

そして「スポーツノンフィクション」の金字塔といえば、やはり↓でしょう。

舞台は1979年の日本シリーズ第7戦、4-3で広島がリードした最終回。マウンドに上がったクローザー・江夏豊と近鉄打線の対決を描いたスリリングな短編です。

私は江夏さんだけではなく、一塁手の衣笠さんもまた本編のヒーローだと思っています。こういう気配りをできる人がいるかいないかでスポーツの結果も組織の風通しも大きく変わる。社会人ならきっと誰しもそう考える、そんなエピソードです。

以前の私は彼みたいな役割を率先して引き受けていました。いまは正直そこまで職場に思い入れを抱けないのでやっていません。それじゃあダメなのかなといま書きながらちょっと反省しました。

ちなみに今作は角川文庫「スローカーブを、もう一球」にも収録されています。こちらの方が入手しやすいかも。

本を楽しんだ後はDVD鑑賞。好き過ぎて買っちゃいました。江夏さんのカーブの曲がりが絶品でビビります。野村克也さんの解説も興味深い。そもそも南海時代、ひじを痛めた江夏さんに「プロ野球界に革命を起こさないか?」と持ち掛け、クローザーに転向させたのは実は野村さんなのです(当時は先発・中継ぎ・抑えという明確な分業制が存在しなかった)。

大きな祭りが終わった後には必ず「ロス」の時間が訪れます。そういうときこそじっくり味わえる本の出番です。熱い本を読んで暑い夏を楽しく乗り切りましょう。

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