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キッチン・ブルー【読書記録】
久しぶりに、すごく共感する作品に出会いました。
遠藤彩見さんの『キッチン・ブルー』という本です。
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食事を作ることや食べることにまつわる、6つの話が収録されています。
この中の一つに『食えない女』という話があって、これにすごく共感しました。
❁あらすじ
主人公・灯(とも)は、他人と食事を共にすることができない「会食不全症候群」。
そのせいで、周りの人からは「付き合いが悪い」「頑固」と陰口をたたかれてしまいます。
そんな灯が仕事を通じて蛯名という男性と知り合う。けれど、恋愛の進展には食事が必須。
ふたりの関係はどうなる……?というストーリー。
灯はこれまでの経験から、食事をめぐる他人との関係に、疲れ切ってしまっています。
これなら食べられるかも、と料理を勧められる。あなたを思って作った、と手料理を差し出される。食べられるようにならなきゃね、と笑顔で励まされる。思いやりという名の勘違いがプレッシャーとなって襲い掛かってくる。食べて、食べて、食べて、という声が、苦しめ、苦しめ、苦しめと言われているように聞こえてくる。愛してくれているなら、思ってくれているなら、どうして理解してくれないのだろう。
なのに灯は謝らなければならない。食べられなくてごめんね、ごめんね、とずっと謝り続けている。謝られて仕方なさそうに笑う相手の顔は、いつも許してやる立場の傲慢さをたたえている。それを見るたびに、氷のかけらを飲み込んだような冷たさが体をよぎる。
この感じ、すごーくよくわかるな、と思いました。
❁食べられないことへの罪悪感
わたしは、子どもの頃から食べるのが苦手でした。
もともと少食ですぐお腹がいっぱいになってしまうし、胃もあまり強くない。給食は絶対食べきれませんでした。
小学3,4年生の頃は、給食を残す前に必ず担任の先生に許可をもらいに行かないといけない制度で。
「残していいですか」と訊くと、ほぼ毎回「もう少し食べなさい」と言われるので、泣く泣く食べていました。
大人になっても少食は変わらず。
しかも緊張しいなので、初対面の人や慣れていない人との食事は緊張してしまって、よけいに食べられなくなるのです。
お店で出てくる、一人前の食事が完食できない。無理に食べると吐き気がしてしまう。
「えっ、それだけしか食べないの?」
「もうお腹いっぱいなの?」
と何度言われてきたことか……。
「少食で……」「胃が弱くて……」と苦笑いしながら説明するけれど、共感してくれる人は少ない。
「繊細なんだね」「だからそんなに痩せてるんだね」と言われて、「別に痩せたくて痩せてるわけじゃないやい」と心の中で呟きながら、また苦笑いで返す。そんな感じ。
少食な人、大人なのに食べ物を残す人という印象がついてしまうのが嫌でした。初対面の人との食事ならなおさら。
一緒に食事するのが楽しくないんだと思われたくない、そういうわけじゃないんだと言いたい。
けれど食事中は「あとどれくらい食べられるかな」などと考えながら食べていることが多いから、きっと楽しくなさそうに見えてしまうんだろうなぁとも思うし、そのことに罪悪感を抱くこともあります。
少ししか食べられないわたしに、普通に食べられる人たちが向ける少し不思議そうな視線に、何度となく居心地の悪さを感じてきました。
わたしの場合は、会食不全症候群というわけではないのです。
けれど、灯の他人と一緒にご飯を食べるのが苦手、というところに、そこに抱く感情に、近いものを感じてとても共感しました。
まるで、お互いの気持ちを分かり合える同志に出会ったような感じ。叶うなら灯とおしゃべりしたい、食事なしでいいから……!
❁食べられない人間の処世術
他人と食事ができない、できても残したりすることが気になってしまうというのは、けっこう辛いものです。
残ったもの食べてもいいよ、ができる家族となら気兼ねなく食べられるので、リラックスできるかどうかはかなり大きいな、と思っています。
繊細だとか神経質だとかそういう性質が自分にあることは否定しないし、そんなところも自分の一部だと受け入れてはいます。
それでも、何も気にせず他人とご飯に行って、一人前の料理を何の苦もなく食べきれる人が羨ましいなぁ、というのも正直なところです。
灯は、会食不全症候群をきっかけに仕事を在宅ワークに変え、友達ともほとんど会わなくなるなど食事の機会を何とかやり過ごしながら生活しています。
他人との交流に、食事は避けて通れないもの。
灯のように、最適解を探しながら、自分なりに付き合っていくしかないな、と思いました。
この物語の灯と蛯名がどうなるのかは、ぜひ本編を読んで確かめてみてほしいです(かなり意外な展開でした)。
この本にはほかにも、食にまつわる悩みや迷いを抱えた人物たちが登場する話が収録されています。
食の悩みを抱えるひとにも、食べることが大好きなひとにも、一回読んでみてほしい短編集です。
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