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【まだ「美しい」ものを「美しい」と表現していますか?】2つの《漢詩》から語彙力を学びます!


自然の美しさをどう表現する?


私が自分の気持ちを表現する際に
気をつけていることは、

  • 美しい風景を美しい

  • 美味しい料理を美味しい

  • 面白いことを面白い

と、言わないことです。

以前にも記事にしたことがありますが、
好きなものを「好き」という言葉を使わずに
表現すると、相手に伝わりやすくなります。


「好き」を「好き」以外の言葉で伝える。
私自身、常々心がけている事でもあり、
強い憧れを抱いている事です。

私が漢詩に強く惹かれるのは、
そういった理由があるからなのかもしれません。

「美しさ」を表す言葉
「悲しみ」を表す言葉
「喜び」を表す言葉

これらの言葉が数えきれないほど存在するのです。
しかも、文字数は最小限で。
さらに声に出して読むと、韻を踏むリズムがあり
美しさを強長させます。

今回紹介する二つの漢詩は、
どちらも旅先で出会った自然を表現したものです。

  • 韋応物:夕次盱眙具
    →夕日が美しい

  • 王湾:次北固山下
    →夜明けが美しい

この二つの詩の中で、
夕日が美しい・夜明けが美しい
ことを表現した句があります。

さて「美しい」という言葉を使わずに
どのような言葉で結び、広げていくのでしょうか?
興味がある方は、この後もお付き合いください。




韋応物:夕に盱眙県にやど

夕次盱眙具
韦应物
落帆逗淮镇,停舫临孤驿。
浩浩风起波,冥冥日沉夕。
人归山郭暗,雁下芦洲白。
独夜忆秦关,听钟未眠客。

【書き下し文】
帆を落ろして淮鎮わいちんとどまり
ふねとどめて孤駅こえきに臨む

浩浩こうこうとして 風 波を起こし
冥冥めいめいとして 日 ゆうべに沈む

人 帰りて 山郭暗く
かり くだりて 盧州ろしゅう白し

独り 夜 秦関しんかんおも
しょうを聴いて 未だ眠らざるかく


【日本語訳】
淮水わいすいの町に帆おろし
舟停むるわびしき駅舎

水ひろく風に波立ち
うすぐれて夕日は沈む

人帰り山ざと暗く
雁下りて盧の白し

ひとりねに故里おも
ねむれずにあけの鐘聴く


【解説】
淮水とは中国の中部に位置する河川です。
盱眙县は淮水に臨んだ町。
韋応物が舟旅の途中で日れて風波起こり、
舟をとめて一夜を明かしている様子。

前半の六句は景観を描写し、
後半二句は旅の心情を詠っています。


やどるとは、泊まるの意味があります。



王湾:北固山下にやど

次北固山下
王湾
客路青山下,行舟绿水前。
潮平两岸阔,风正一帆悬。
海日生残夜,江春入旧年。
乡书何处达?归雁洛阳边。

【書き下し文】
客路きゃくろ 青山せいざんもと
行舟こうしゅう 緑水の前

うしおたいらかにして両岸ひろ
ただしゅうして一ばんかる

海日かいじつ 残夜ざんやに生じ
江春こうしゅん 旧年に

郷書きょうしょ いずれのところにか達せん
帰雁きがん 洛陽のへん

【日本語訳】
旅をゆく青山の下
舟の前には緑の水

潮満ちて水はたいらか両岸はとおくひろがる
追風をまに受けて帆をかけた舟ひとつ

明けのこる夜の内に海上から日はのぼり
年もまだ改まるに江南はもう春景色

ふるさとへ送るたよりをとどけむに由もなく
かりがねは北に飛んで洛陽へ帰るというに


【解説】
作者である王湾が、旅先でふと故郷を思い、
恋しさを表現した詩。
「海日生残夜,江春入旧年。」
の一節は、とくに名句といわれています。

海日は海からのぼる太陽、
残夜は明け方のことです。
江春入旧年は、川辺は春めいているがまだ年は改まっていないこと。
年も明けぬまま、春が来ている様子を表します。

北固山は江蘇省にある山の名前。
緑水は長江の水を指しています。

「乡书何处达?归雁洛阳边。」
ふるさとへの便りを託すすべがないので、
せめて洛陽へ帰る雁にことづけたい。
という意味です。

やどるとは、泊まるの意味があります。



漢詩から学ぶ言葉の交差・平行


私は記事のはじめに、漢詩の中で「美しさ」は
どう表現されているのか、と問いました。
私はこう考えます。


・韋応物:夕次盱眙具では、

「人归山郭暗,雁下芦洲白。」
夜になって人々が家に帰り
里がだんだん暗くなる様子と、
あしの穂の白さが交差することで
日が沈む様子を美しく表現しています。

・王湾:次北固山下では、

「海日生残夜,江春入旧年。」
日が昇る様子を「夜を残していく」と
表現したことが脱帽です。
「初日の出」という言葉が日本特有なこともあり
どうしても「日」の方に視点が行きがちになります。
この表現と平行するように、
暦を置いてけぼりにして春がきていることも
伝えています。

「海日生残夜,江春入旧年。」
を日本語訳し、さらに言い換えるなら
「夜を残して日が昇るように、
年が明けないまま春が訪れようとしている」

といった感じでしょうか。


漢詩にはこのような表現が多く登場します。
私にとって漢詩を読みとく事は、
宝箱を開けるような感覚です。


参考書籍
中华书局经典教育研究中心:唐诗三百首诵读本(插图版) (Chinese Edition)


もしもこの記事を読んで、
漢詩に興味を持ってくださった方は
ぜひこちらも覗いてみてくださいね。

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