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ちょびの書評

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2018年3月の記事一覧

穂村弘「本当はちがうんだ日記」★★★★★

エッセイ集、穂村弘の本当はちがうんだ日記を読んだ感想。 

面白い話をするのは難しい。特に「ちょっと面白いことがあったんだけど」などと話し始めたら最悪だ。ただでさえ難しいのにそのハードルを自ら上げてしまっているのだから。

自分の中では確かに面白いのだ。思い出し笑いをしてしまうほどに。しかし、言葉にして人に話してみると、どうもその面白さの十分の一も伝わった気がしない。最後には仕方なしに「っていうこ

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榊原康 「NTT30年目の決断 脱「電話会社」への挑戦」★★☆☆☆

ビジネス書、榊原康のNTT30年目の決断 脱「電話会社」への挑戦を読んだ感想。

NTTグループの2010年代の動きが大まかにまとめられている。専門用語が多く、その分野に近い人にはお勧めできるが、興味のない人にはことごとくつまらないだろう。

単純な賞賛本ではなく、批判的な内容も多く、今後の課題を広く検証するなど批評としては良心的であるといえる。 

通信業界に興味のある人は読んでみるといいだろう

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綿矢りさ「蹴りたい背中」★★★☆☆

小説、綿矢りさの蹴りたい背中を読んだ感想。

同著者の「勝手に震えてろ」が拗らせた女性を描いているとするならば、こちらは拗らせかけている女子高校生を描いている。

男子校出身の私には共学における人間関係の機微というものは想像の世界にしかないものだが、その人間関係に嫌気がさした主人公は嫌気がさしている分、人間関係に敏感になり俯瞰した視点でそれを眺めている。

オタクのにな川は幼稚だが純粋だ。その純粋

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早見和真「イノセント・デイズ」★★★☆☆

小説、早見和真のイノセント・デイズを読んだ感想。

事前知識なしに読み始めたが、途中まで読み進めたところでもう一度プロローグを読むことになった。構成が特徴的で、プロローグに判決シーンを持ってきて、その後過去を明かしていく手法が核となっていて、かつ面白い。

民放のニュース、報道番組は視聴率を重視せざるを得ないため、視聴者の興味をそそるか、ショッキングで印象に残るかを基準に報道するのは現状の制度では

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村田沙耶香「殺人出産」★★★★☆

小説、村田沙耶香の殺人出産を読んだ感想。 

物語の導入の書き方が巧み。独特の倫理観が浸透している世界に違和感なく没入させる手法が見事。星新一のショートショートを読んでいるような気分になる。

全編を通して生と性に対する現代社会の倫理観への懐疑が描かれているが、倫理観なんてものは長い目で見れば一過性のものにすぎないと考えると割とすんなり読めてしまう。

どの短編もすっきりしており読みやすいが、「ト

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ジェイン・オースティン「高慢と偏見」★★★☆☆

小説、ジェイン・オースティンの高慢と偏見を読んだ感想。

筆者の身近な世界を描いているからこそリアリティがあり、情景をつぶさに想像できる。ユーモアあふれる会話や知性を備えた主人公のエリザベスが魅力的。また、タイトルである高慢と偏見は読者にも少なからず身に覚えがある部分があるのではないだろうか。

次に、疑問に思った点。
まず活発で知性を備えたエリザベスに比べて彼女の家族があまりに愚鈍である点。これ

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R・A・ハインライン「夏への扉」★★★★★

小説、ロバート・A・ハインラインの夏への扉を読んだ感想。

SF小説でタイムトラベルは定番のテーマの一つであるといえる。未来であれば多少の科学技術の進歩は約束されるものであるし、ユートピアあるいはディストピアを自由に創造することができる。

ナイーブなアイデアならタイムマシンで時間の遡行と順行を実現するだろうが、本作では2種類の手法で別々に解決している点はユニークである。

原作が発表されたのは1

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伊藤計劃「虐殺器官」 ★★★★☆

小説、伊藤計劃の虐殺器官を読んだ感想。

テロ、戦争、虐殺。TVやインターネット上で目にする機会が増えてきた、そういわれても私達の生活には何ら影響は感じられない。

ミサイルが上空を通過していっても会社は休みにならないかしらと期待する我々にとって、人が人の暴力によって命を奪われるという事象は別世界、あるいはフィクションの中に存在するに過ぎない。

伊藤計劃「虐殺器官」の世界では戦争、大量虐殺が頻発

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