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グリーフ哲学

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大切な方を亡くした方に
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#ハイデガー

夜祭幻想

夜祭幻想

先夜、市内の神社仏閣での屋外アートとライトアップの催事に行ってきました。

日中は来る人を浄め癒す神社仏閣も、夜は門を閉ざし、また閉ざさないまでも、立ち入るのを拒むような気に充たされる空間になります。

それはそうした場が、夜には、現世のものではないものにとっての空間となるからでしょうか。

ただ、祭りの日は、人間とカミが、そして生者と死者が行き交い、出会う場となるのでしょう。

私は、あの日から

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グリーフ哲学をー死者との対話

グリーフ哲学をー死者との対話

実家に落ち着いたと思ったら、次から次へと、心が泡立つようなことがいろいろと起きますが、習い始めた三味線の練習が、意外に心の落ち着きを得させてくれています。

夫が亡くなった直後は、一連の喪の儀式のためのあれやこれやで、悲しみはあるのだろうけど、良くも悪くも、それにとらわれている自分がいました。

儀式的なものが落ち着き、周囲への対応も一段落つくと、一人取り残された感覚が襲ってきます。だからといって

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グリーフ哲学をー悲しみと生

グリーフ哲学をー悲しみと生

彼が突然逝ってしまったあとしばらくは、何を食べても味気なく、まさに砂をかんでいるようでした。

それでも、当時は仕事をしていたこともあって気を張っていたけれども、一周忌を過ぎたころから、反動なのか、原因不明の目眩に襲われるようになりました。

張り詰めていたその頃の生活は、自責の念から自分を追い詰めていたのだろうと思います。彼の苦しみに気づかなかった自分を痛めつけたかったのかもしれません。

そう

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グリーフ哲学をー不安にこそ

グリーフ哲学をー不安にこそ

天災というのは脅威であり、だからこそ、まだ起こってもいない地震にも恐れを抱きます。けれども、恐れよりも根本的な情状性は、不安 です。

不安はそれ自身としては恐れをはじめて可能ならしめる。(M.ハイデガー『存在と時間』、原佑・渡邊二郎訳、中公バックス)

恐れとは、何か脅かすものがあるからこそ恐れる。確かに地震は予測不可能ですが、日本が四つのプレートの境界線上にあって、だからこそ地震が起こるという

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グリーフ哲学をー「現」

グリーフ哲学をー「現」

昨年末、一人暮らしの母がホームに入居したので、結婚してからこのかた30年住んでいた横浜を去って、実家のある福岡に帰ってきました。自分がこれまで生きてきたなかで、一番時を過ごしてきた横浜。私の大好きな横浜。自分の出身地にもかかわらず、語尾もアクセントも福岡弁に戻ってきつつあり
(帰省した時には、しばらくいると戻ってはいましたが)、食べ物の安さ、
おいしさ、魚介類の安さ、新鮮さに幸せ~と思いながらも、

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グリーフ哲学をー悲しみのうちに

グリーフ哲学をー悲しみのうちに

夫が亡くなって10年経ちました。この間、夫がいない空虚さを抱えながら、それにどんな意味があるのか、問い続けてきました。その問いは、まだ続いています。

幸い、夫が亡くなる前から大学院で哲学を学んできたこともあり、その問いを哲学とリンクさせながら考え続けていくことができ、今思えば、それが私の生きる支えになっていたようにも思います。私の体験を通じて哲学から、大切な方を亡くされた方々へ、何か少しでも気持

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中原中也ー「一つのメルヘン」と世界の開け

中原中也ー「一つのメルヘン」と世界の開け

中原中也「一つのメルヘン」
小林秀雄が最も美しい遺品だと賞賛し、大岡昇平が異教的な天地創造神話だと評した、美しくも優しい永訣歌。この作品は、一つの哲学である。それを「一つのメルヘン」で語ってしまうところに中原中也のすごさがある。

秋の夜は、はるかの彼方に、
小石ばかりの、河原があって、
それに陽は、さらさらと
さらさらと 射してゐるのでありました。

陽といっても、まるで珪石か何かのやうで、

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