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グリーフ哲学

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大切な方を亡くした方に
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2022年3月の記事一覧

グリーフ哲学をー世界の外(2)

グリーフ哲学をー世界の外(2)

夕焼
黒姫山と妙高山の間に日はしずむ
その時みかん色の雲が
すうっとわたしの目の前を通る
一日の出来ごとをのせて雲は動く
わたしが学校で勉強していたのは
見ているだろうか

これは、上田閑照が『場所―二重世界内存在』のなかで引用した当時長野県野尻湖小学校4年生だった小学生の詩です。なぜ、この詩が紹介されたのでしょうか。

今このとき「すうっと目の前を通る」みかん色の雲。それは「一日の出来ごとをのせ

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グリーフ哲学をー「現」

グリーフ哲学をー「現」

昨年末、一人暮らしの母がホームに入居したので、結婚してからこのかた30年住んでいた横浜を去って、実家のある福岡に帰ってきました。自分がこれまで生きてきたなかで、一番時を過ごしてきた横浜。私の大好きな横浜。自分の出身地にもかかわらず、語尾もアクセントも福岡弁に戻ってきつつあり
(帰省した時には、しばらくいると戻ってはいましたが)、食べ物の安さ、
おいしさ、魚介類の安さ、新鮮さに幸せ~と思いながらも、

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グリーフ哲学をー見えないもの

グリーフ哲学をー見えないもの

わたしたちが、自己というとき、その定義は大体において、デカルトの「われ思う、ゆえにわれ在り(cogito ergo sum コギト エルゴ スム)」を前提としています。

この「思う」とは、フランス人であったデカルトの言葉を借りるならば、penserで、日本語では「考える」という意味になります。

それは、デカルトが感覚も知性も想像力も、夢か幻かもしれないと疑ってみても、疑う「私」が在らねばならな

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グリーフ哲学をー悲しみのうちに

グリーフ哲学をー悲しみのうちに

夫が亡くなって10年経ちました。この間、夫がいない空虚さを抱えながら、それにどんな意味があるのか、問い続けてきました。その問いは、まだ続いています。

幸い、夫が亡くなる前から大学院で哲学を学んできたこともあり、その問いを哲学とリンクさせながら考え続けていくことができ、今思えば、それが私の生きる支えになっていたようにも思います。私の体験を通じて哲学から、大切な方を亡くされた方々へ、何か少しでも気持

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やさしい哲学ーカントの世界観

やさしい哲学ーカントの世界観

 

「止まれ」の標識。自動車に乗っているとき、この標識を見たら、最初に頭によぎるのは、停止線の直前で車を一旦停止させなければいけない、ということ。「~ねばならない」というのは、私たちが世の中で生きていくのに欠かすことのできない、車と人とが共存していくための倫理に基づいたルール。

 だが、その前に、この「止まれ」の標識を、停止線の直前で一旦停止する標識として認識しなければならない。つまり、車道に

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中原中也ー「一つのメルヘン」と世界の開け

中原中也ー「一つのメルヘン」と世界の開け

中原中也「一つのメルヘン」
小林秀雄が最も美しい遺品だと賞賛し、大岡昇平が異教的な天地創造神話だと評した、美しくも優しい永訣歌。この作品は、一つの哲学である。それを「一つのメルヘン」で語ってしまうところに中原中也のすごさがある。

秋の夜は、はるかの彼方に、
小石ばかりの、河原があって、
それに陽は、さらさらと
さらさらと 射してゐるのでありました。

陽といっても、まるで珪石か何かのやうで、

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