(V30) イーロン・マスクが自動車とロケット業界に持ち込んだ「禁断の手法」とは?-1 (2021.8.16) by 竹内一正 より抜粋加筆しました。
⑴ ベストエフォート型とギャランティ型の違い
①なぜ、テスラとスペースXはこれほどまでの大成功を、
短期間で成し遂げることができたのか。
その鍵は、「ベスト・エフォート型」にあった。
②ギャランティ型とは。
ハードウエア製品の世界では、「ギャランティ型」という手法で、
品質や性能の保証をしてきた。
これはあらゆる状況を最大限想定し、性能テストを繰り返し、
時間とコストをかけることで不良品が出ないように万全を期す方法。
ただし、ギャランティ型を採用すると、不良品だけでなく、
失敗も“悪”だと拒絶する企業風土になってしまう。
結果、失敗した社員は給料が減り、出世が遠のく。
③一方、ソフトウエア製品の世界では、
プログラムのバグはあって当たり前。
不具合が起きることも織り込んで、結果を保証しない、
「ベストエフォート型」という手法で成長してきた。
【例】ネット回線は絶対につながることを保証してはいないし、
ソフトウエアの動作が途中でおかしくなれば、アンインストールしてインストールし直せばいい。
これはアメリカ人の気質にマッチしていた。
「とりあえずやってみる。問題が起きれば修正する」
④ギャランティ型は時間もコストもかかるが、
万が一の問題が起きる確率は大きく下げられる。
従って、社長がマスコミの批判にさらされる回数も減る。
一方で、革新的なテクノロジーが、
誕生する可能性ははなはだ低くなる。
⑤ベスト・エフォート型は、導入が格段にスピーディで、
コストも大幅に低減できる。
“失敗”を容認するので、
革命的なテクノロジーが生まれやすくなる。
⑥だが、万が一の問題が起きる確率は極めて高くなり、
社長が批判にさらされる回数はひときわ多くなる。
会社業績は乱高下しやすく、事業継続性は低くなる。
⑵ イーロンは、最も保守的といえる自動車業界に、ベスト・エフォート型で戦いを挑んだ
【例】テスラ「モデルS」の開発における、
アルファ版(開発初期の試作品)はたったの15台。
①これで、インテリアデザインから、
寒冷地走行テストも衝突試験もやってしまう。
しかしトヨタなど大手自動車メーカーなら、
ギャランティ型で“万全を期す”ため、200台以上が必要だった。
②とりあえずやってみる。
でもダメだったら、原因を解明し、改善する。
ベストエフォート型でテスラはこのサイクルを猛スピードで回し、
モデルSのアルファ版の台数の少なさを補っていた。
③スペースXもベスト・エフォート型で切り込んだ。
NASAでさえ不可能と諦めていたロケット再利用に挑み、
何度も失敗を繰り返しながら技術を進化させ、7回の失敗の末に成功をつかんだ。
その間の世間からの辛辣(しんらつ)な批判は、
イーロンが一手に引き受けた。