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ダイジェストよりもディテールが知りたい
『むかしこっぷり』というマンガを読んだ。身近な人の、なんとなく忘れられない小さな昔話を集めた短篇集だ。
子どもの頃、近所に住むお兄さんに10円玉をもらったこと。教室の窓の外に生えていたポプラの木が切られたこと。仔犬がいなくなってしまったこと。
人生のダイジェスト映像からはカットされるけれど、間違いなくその人の血肉となっているようなエピソードが、やさしくささやかに編まれている。
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“家でひとり読書”だって立派な予定である
「孤独と静寂を大事にしなさいよ」
6,7年前、真夜中に乗ったタクシーの運転手さんに、こんなことを言われた。
「忙しく働いたあとには、海で一人泳ぐとか、喫茶店で読書をするとか、自分の内にある孤独と向き合う時間をつくらなきゃだめだよ。そうしないと、心の泉が枯れるよ」
ずいぶんと詩的な言い回しをする人だった。今でもときどき、「孤独と静寂」ということばを思い出す。
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今日の世界は男に対
ことばで世界を編集すること、との出会い/長野まゆみ「少年アリス」
はじめに断っておくと、私はこの本のストーリーを少しも覚えていない。登場人物の名前がかろうじてわかるくらいだ。だけど、この本に出会っていなかったらこうやって文章を書いていなかったかもしれないなと、ふと思うのだ。
小学5年生のときだった。帰りの会で、2ヶ月に1度の「図書新聞」が配られた。図書新聞は、ざらっとしたA3わら半紙のプリントで、図書委員が交代でつくる学級新聞のようなものだ。(図書委員は大抵、
春の澱みと向き合うために/「デッドエンドの思い出」よしもとばなな
春は心が澱む。
もわっと暖かい風を吸い込むと、おなかの中にホコリが巻き起こって、黒く澱んだ小さな沈殿物が溜まっていく。
「寒くなると古傷が痛む」とよく言われるけれど、心の古傷がいちばん痛むのは、だんだんと暖かくなる今くらいの時期のような気がする。
『デッドエンドの思い出』は、そういう心の古傷に、近すぎず遠すぎない距離感でやわらかく寄り添ってくれる。
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「ドカンとショッキングなことが