奴隷商人とその時代 Ⅴ
奴隷商人とその時代 (続き)
奴隷商人とその時代 Ⅴ
●奴隷の相場、娼婦の相場
これで相場を考えてきましたが、計算式が間違い。
です。訂正します。
紀元1年の奴隷の値段は、
という記録がある。このころのローマ帝国の人口は5,400万人で、そのうち3分の1が奴隷だった(半分以上と見積もる人もいる)1デナリウス=銀3.9 g。当時のローマの庶民の年収は、500~1,000デナリウス、約100~200万円。
軽トラックから高級乗用車の値段だったということ。しかし、車の場合は、なんらかの希少価値でもつかない限り、新車の時が一番値段が高い。しかし、奴隷は、躾け、訓練、体磨きで値段が上がっていく。
※【砂漠行8日目】 200キロ
アレキサンドリアから百数十キロのオアシスの村で買った、躾も訓練も何もしていない12~18才くらいの子供たちの原価(売値)が平均約金貨4.2枚(銀貨105枚)、21万円。
※【砂漠行11日目】 200+90キロ
こうして、体を磨いたり、房中術を教えこんだり、肛門性交オッケーの若い男の子の奴隷に仕立て上げたり、玉なし竿ありの宦官兼執事に教育したりすると、アレキサンドリアやフェニキアでは、一人金貨10~30枚、上物は金貨200枚にもなっていく。
さて、庶民の一般的な物価だが、
売春が安い!廉価版ワイン2杯で1発!
ちなみに、私のお話で、ハレムの女奴隷、奴隷一家の女奴隷、娼婦が出てくるが、前二者は娼婦と違う。
奴隷は、公証奴隷市場でローマの行政府発行の値段入り証文付きで買ってくる。彼女彼らを転売すると、技量と年齢で値段が変わってくる。証文を書き換える。そして、彼女彼らを開放すると、最終の証文の5%を払って、自由人になる。さらに、彼女彼らが金を積むとローマ市民権が取得できる。
娼婦は奴隷とは違う。
売春宿で働く娼婦 ー 宿の主人から僅かな給料をもらい、一晩に何人もの男を相手に春を売る給料制娼婦や独り立ちした娼婦が売春宿の一室を間借りし、主人に客を斡旋してもらう娼婦。
街娼 ー 街で客を引っ掛けるストリートガール。自分のねぐらに近い場所や、客が釣れそうな場所にたむろし、道行く男たちに声をかけて稼ぎを得ていた。
宿屋や居酒屋などで働く娼婦 ー 宿屋や居酒屋のウェイトレスをしながら客を引く、いわゆる兼業の娼婦。ときには宿の主人の妻が、娼婦として店に出ることもあった。
高級娼婦 ー 上流階級の男たちを相手に商売をし、歌や演奏、踊りなどの芸事をする娼婦。日本の芸者みたいなもの。営業をかけてくれる娼館の女主人たちと連携して、裕福で権力を握る男たちを紹介してもらうこともあった。高級娼婦のなかには、一晩や一回といった単位での支払いではなく、月単位や年単位で客と契約を交わすものもいた。
どんな人間が娼婦になるかというと、
奴隷 ー 娼館の経営者が奴隷市場から見た目のいい女性を買って娼婦にする、娼館の経営者自体が奴隷商人で、彼らが仕入れた奴隷を教育し、働かせる。戦争捕虜や海賊などから誘拐され売り飛ばされる人間が奴隷となる。市民権を持つものも落ちぶれて奴隷となる場合もある。
捨て子 ー ローマでは女子の捨て子が多かった。娼館の経営者は捨て子の中でも丈夫そうな子を選び、拾って教育を施した後に売春宿で働かせた。
解放奴隷 ー 女性の解放奴隷が自立するために売春宿で働く、というタイプ。古代ローマでは女性の職が少なく、稼ぎも大して期待できなかった。娼婦の収入は現代のパパ活みたいなもの、楽して儲かった。
街娼 ー 夫に先立たれて生活苦から娼婦に身を落とすパターン。苦しい家計を支えるために、母が娘に売春を勧めることもあった。このような親子は貧民街に住む人々だった。
娼婦になるための教育は、
など、現代の銀座のホステス、キャパクラ嬢や芸者と同じ。
ローマ市に45ヶ所の国家公認売春宿があった。ポンペイは娼婦の街としても有名だった。政府公認の売春宿が7ヶ所あった。その一つが理髪店に付随していた。髪を切った客が、ついでに娼婦を買っていく、ということもあった。
どの売春宿も、夕方近くになって開業した。どう娼婦を買うかというと、
品定め ー 売春宿の部屋を覗いて、娼婦たちの品定めをする。娼婦は、自分に割り当てられた部屋で、通行人から見えるような位置に立ったり座ったりして客を待つ。江戸時代の吉原など遊郭と同じ、通行人から遊女が格子越しに確認できるみたいなもの。オランダの飾り窓の女もそう。
娼婦の指名 ー 品定めして気に入った女が決まる、またはなんとなくそれが目的で客が売春宿に入ると、宿の主人は娼婦たちを何人か連れて、客の前に並べる。
娼婦の部屋に入る ー 料金は前払い。一晩に10人以上相手する娼婦もいた。250円とか500円1発では、30日、毎日10発商売しても、月に7.5~15万円しかならない。月300発やられると死ぬでしょうね。
公共浴場 ー 公共浴場では、客が脱いだ服の見張り役に奴隷か解放奴隷を雇う。実は、彼女らは娼婦。江戸時代の銭湯や湯治場の垢すり女みたいなもの。
つまり、娼婦は、奴隷、解放奴隷、捨て子や零落した人間が営む商売で、最下層。娼婦の経歴があると結婚するにも制約があった。
娼婦だった売春歴があったとしても、ローマ市民権を取得すればそれは自由民の女性、ローマ市民の男性との結婚は認められていた。しかし、元老院議員は別。ローマ社会の最上層に位置する身分だから、品行その他を汚すことは許されない。元老院議員は体を売った経歴のある女性、あるいは先祖に娼婦のいるものとは結婚できなかった。
※第15章 ●奴隷商人13、紀元前63年
●フェニキア、紀元前61年
ムラーの体に知性体プローブが憑依していなかった時のこと。ムラーは16才になっていた。
二年前、ハリカルナッソス(現トルコのボドルム)近辺を拠点にしていたギリシャ系海賊の頭目のピティアスは、ポンペイウスの軍団に蹴散らされ、家族・親族・手下共もほとんどローマ兵に殺された。
命からがら、ピティアスは生き残った手下八名と小舟に乗って南へ逃走した。しかし、アナトリア半島の南岸もキプロス島も現在のシリア地中海沿岸もどこまで行ってもローマ支配下に変わりはない。何度もローマ軍に追いかけられて、最後に、命からがらベイルートの北の小さな漁港にたどり着いた。
その小さな漁港は、フェニキアの奴隷商人、ムラーの一族が支配していた地域であった。ムラーの一族は漁港からその一帯の丘陵地帯までを領地としていた。領地の漁民から一報を受けた当時14歳のムラーは、手下にピティアス一味を捕らえさせた。
ムラーは「俺はフェニキア人だ。ローマに義理立てする必要はない。おまえの首にかかったはした金の賞金をもらっても俺に得はないさね。ピティアスよ、俺の下で働くというなら、手下ともども、俺の配下に加えてやってもいいのだぞ」とピティアスに言い、ピティアスは承諾した。
漁港から北に五キロほど行ったところの小さな半島は、そこそこの入り江があった。半島の根本は断崖で囲まれていて、海からしか半島に近づけない。入り江の奥には2アクタス(現在のエーカー、約4,000平米✕2)ほどの平地がある。ムラーの一族の土地だ。そこをもらってピティアスたちの拠点を築いた。ムラーが資金援助をした。
ピティアスたちが海賊業をやるのはいたしかたない。黒海東岸のコーカサス地方のアディゲ人(エミーの部族)の金髪碧眼、ベッピンを拉致してムラーに献上するのもいいだろう。だが、ムラーは奴隷売買にはあまり興味はない。ムラーの考えでは、奴隷収集はほどほどに交易に力をいれれば、ローマに目をつけられず、隠れ住むこともなくなるというものだった。
それから二年、散り散りになっていたピティアスの手下も彼が生きている噂を聞いて集まってきた。新たに雇った手下も八十人を超えるようになった。
ある日、ピティアスがひょっこりムラーの海岸の家を訪れた。ムラーは母屋のバルコニーで朝食を取っていた。「おお、ピティアス、久しぶりだな。朝食はどうだ?一緒に食べよう。どこに航海に行っていたんだ?」と聞いた。
「ヘイ、黒海沿岸まで交易に出てました」
「ほお、土産がありそうだな?」
「土産はあるんですがね、あまり気分の良い話じゃないのもありやして・・・」
「ふ~ん、気分の悪い話?」
「ヘェ、ビールの原料のカフカス産ホップを仕入れて、アナトリア(小アジア、今のトルコ)まで帰ってきたんですがね。そこで、ここの港の商人のデキムスの船が海賊に襲われた後に出会っちまいやしてね」
「デキムス?ああ、そういやあ、俺は彼に交易品の売掛金担保で金を貸していたな。アウレウス金貨四百枚(約2千万円)だったかな?」
「旦那は金貨四百枚も貸していて呑気だなあ。それでね、現場にいくとデキムスの船は沈没しかけていて、交易品は奪われた後でした。デキムスの持ち船は1隻だけ。これでスッテンテンでさ。生き残った船員の話では、デキムスは首をちょん切られて死んだって話ですわ。この話は、まだ街の噂にはなってません。デキムスにも金を貸していたヤツがおりやしょう。たぶん、話を聞いたらすぐ貸し剥がしをするヤツも出てくる。旦那も貸してるんじゃないかと思って急いで来た次第です。旦那、デキムスの屋敷に今から行って、差し押さえをしましょうや」
「デキムスは15年前に嫁を亡くして、後添えに俺の親父の愛妾のルシアを目合わせたんだ。ルシアはもう30になるかな?すぐ娘のオクタビアができた。俺にとっては、乳母とその娘みたいなもんだ。不憫だな。よし、早速行こう」
馬を二頭用意させた。港まで降りて海岸線を北に行く。デキムスの屋敷は、港の郊外の1アクタス(現在のエーカー、約4,000平米)ほどの果樹園付きの家だった。こりゃあ、売っても金貨八百枚(約4,000万円)がいいところだなあ、とムラーは思った。
執事が玄関に出てきたので奥方のルシアに目通りをお願いした。応接間は、中級クラスの商人の家に相応しいこじんまりしたものだったが、ルシアの管理が行き届いているのか、清潔で居心地がいい。ルシアが部屋に入ってきた。もう30才だが、さすがに親父の愛妾だっただけはある、美貌は衰えていないとムラーは思った。
「まあまあ、ムラー様、坊ちゃま、お久しぶりでございます」とルシアがムラーにお辞儀をした。
「ルシア、今日はな、良くない知らせを持ってきた」とムラーはピティアスにデキムスの船で起こったことを説明させた。ルシアはガックリして、失神しかけた。ムラーは腕をとって体をささえ、椅子に腰掛けさせた。
「ルシア、気を確かに持って、どうするか、考えるんだ。じきに、金貸しが貸し剥がしにやってくるぞ!」とムラーは言った。ルシアが気丈にも立ち上がって、帳簿を持ってきますと言って部屋を出ていった。
ルシアが帳簿をムラーに渡した。ふ~ん、俺は金貨四百枚だ。モハメッドから金貨六百枚。ポストゥムスから同じく金貨二百枚。クィントゥスが金貨百枚。合計金貨千三百枚、約6,500万円。
果樹園付きの屋敷は、金貨八百枚(約4,000万円)がいいところだろう。家財や家付きの奴隷を売ってもたかが知れている。せいぜい金貨百枚。金貨四百枚(約2,000万円)不足だ。破産宣言をすると、ローマの行政府が公開の入札をかけて買い叩かれるだろう。ルシアとオクタビアはローマ市民権を剥奪されて、奴隷に売られる。ルシアは年がいっているので、はした女、オクタビアは女奴隷として、奴隷市場で売られることになるだろう。
ムラーがその予想をルシアに説明した。ルシアは背を反らせて顎を上げた。「いたしかたないですね、ムラー様。あなたの見積もりが正しそうです。資産を売っても足りないようです」と言って、執事を呼んだ。「オクタビアをここに連れてきて」と命じた。
オクタビアが応接間に来た。彼女はムラーの1才下の15才だった。幼なじみみたいなものだ。彼は数年彼女に会ってなかったが、ルシアに似て長身の美人に育っていた。ルシアから話を聞いた彼女は、母親と同じく気丈にも泣いたりしなかった。「わ、わかりました。仕方ありませんわね、お母様。私たち、奴隷身分になるしかなさそうです」とガックリと首をたれた。
「まあ、ルシア、オクタビア、ものは相談だが、俺がその借金の肩代わりをしよう。モハメッド、ポストゥムス、クィントゥスには俺が話をつけて、金貨九百枚と利子を支払おう」
「ムラー様、それではムラー様が大損します」とオクタビア。
「いいや。そうでもない。ピティアス、お前のハレムに夫人は何人いる?」
「ヘ?一人ですが・・・第2は昨年亡くなりやして・・・」
「そうか。ルシアは30才の年増だが、どうだ?ルシアを第2夫人にするのは?」
「・・・いえ、ムラー様、身分が違いますぜ。ルシア様はムラー様のお父上の思われ者だったでしょう?海賊の奥方なんて・・・」
「破産する一家だ。身分なんざ関係ない。放っておけばローマ市民権がなくなって奴隷身分になるんだ」
「ご本人様にもお聞きしないと・・・」
「私はまったく構いません。私で良ければピティアス様の夫人でなくとも、奴隷でも構いません。でも、娘は・・・」とルシア。
「オクタビアは、そうだなあ、小さい頃から俺と一緒だった。俺のハレムに入れてもおかしくないぜ?本人次第だけどな」
「ムラー様、わ、私でよろしいんですか?私・・・あの・・・お母様と同じ、ムラー様の奴隷でも構いません」とオクタビア。
「じゃあ、話はそれで決まりだ」
ムラーは、モハメッド、ポストゥムス、クィントゥスに交渉して、彼らの貸方、金貨九百枚と利子5%を払って話をつけた。こうして、オクタビアはローマ市民権を剥奪されることもなく、ムラーのハレムに入って、彼の長男を産んだ。
奴隷商人とその時代 Ⅴ に続く。
奴隷商人とその時代 (続き)
奴隷商人とその時代 Ⅳ
●紀元前46、47年前後の出来事
●古代ローマの浴場
奴隷商人とその時代
奴隷商人とその時代 Ⅰ
奴隷商人とその時代 Ⅱ
●古代の鏡
奴隷商人とその時代 Ⅲ
●イスラムの一夫多妻制度
●奴隷制度
●奴隷制度・ハレムと一夫多妻制
●奴隷商人ムラーの商売
奴隷商人 Ⅰ
奴隷商人 Ⅱ
奴隷商人 Ⅲ
奴隷商人 Ⅳ
奴隷商人 Ⅴ
奴隷商人 Ⅵ
奴隷商人 Ⅶ
奴隷商人 Ⅷ
奴隷商人 Ⅸ
奴隷商人 Ⅹ
A piece of rum raisin - 単品集
ヰタ・セクスアリス(Ⅰ)雅子 総集編1
ヰタ・セクスアリス(Ⅰ)雅子 総集編2
ヰタ・セクスアリス(Ⅰ)雅子 総集編3
挿入話『第7話 絵美と洋子、1983年1月15日/1983年2月12日』
登場人物
宮部明彦 :理系大学物理学科の2年生、美術部
小森雅子 :理系大学化学科の3年生、美術部。京都出身、実家は和紙問屋
田中美佐子:外資系サラリーマンの妻。哲学科出身
加藤恵美 :明彦の大学の近くの文系学生、大学2年生、心理学科専攻
杉田真理子:明彦の大学の近くの文系学生、大学2年生、哲学専攻
森絵美 :文系大学心理学科の2年生
島津洋子 :新潟出身の弁護士
シリーズ「A piece of rum raisin - 第1ユニバース」
第1話 メグミの覚醒1、1978年5月4日(火)、飯田橋
第2話 メグミの覚醒2、1978年5月5日(水)
第3話 メグミの覚醒3、1978年5月7日~1978年12月23日
第4話 洋子の不覚醒1、1978年12月24日、25日
第5話 絵美の覚醒1、1979年2月17日(土)
第6話 洋子の覚醒2、1979年6月13日(水)
第7話 スーパー・スターフィッシュ・プライム計画
第8話 第二ユニバース
第9話 絵美の殺害1、第2ユニバース
第10話 絵美の殺害2、第2ユニバース
第11話 絵美の殺害3、第2ユニバース
シリーズ「フランク・ロイドのヰタ・セクスアリス(Ⅱ)-第4ユニバース
第一話 清美 Ⅰ、1978年2月24日(金)
第一話 清美 Ⅱ、"1978年2月24日(金)1978年2月27日(月)
第二話 メグミ Ⅰ、1978年5月4日(火)
第三話 メグミ Ⅱ、1978年10月25日(水)
第四話 メグミ Ⅲ、1978年10月27日(金)
第五話 真理子、1978年12月5日(火)
第六話 洋子 Ⅰ、1978年12月24日(土)
●クリスマスイブのホテル・バー
●女性弁護士
第七話 絵美 Ⅰ、1979年2月17日(土)
●森絵美の家
●御茶ノ水、明治大学
●明大の講堂
●山の上ホテル
第八話 絵美 Ⅱ、1979年2月21日(水)
第九話 絵美 Ⅲ、1979年2月22日(木)
第十話 絵美 Ⅳ、1979年3月19日(月)1979年3月25日(日)
第十一話 洋子 Ⅱ、1979年6月13日(水)
メグミちゃんの「ガンマ線バースト」の解説
マルチバース、記憶転移、陽電子、ガンマ線バースト
シリーズ「雨の日の美術館」
フランク・ロイドのブログ
フランク・ロイド、pixivホーム
シリーズ「アニータ少尉のオキナワ作戦」
シリーズ「エレーナ少佐のサドガシマ作戦」
A piece of rum raisin - 第3ユニバース
シリーズ「フランク・ロイドのヰタ・セクスアリス-雅子編」
フランク・ロイドの随筆 Essay、バックデータ
弥呼と邪馬臺國、前史(BC19,000~BC.4C)
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