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【どうする家康】「たすけて」は氏真の思い?瀬名よりも元康を求めた今川次期当主の心の闇とは。第4回「清須でどうする!」もっと深掘り

NHK大河ドラマ『どうする家康』第4回のもっと深掘り感想です。
前回の感想はこちら↓

(※以下、ネタバレ注意)

前提として……大河でも「史実だから良い」「創作だからダメ」ってことはない!

今回の深掘り記事をご覧いただく前に……まあ毎回、前提ではありますけど。こちらは史実の登場人物がどうであったか検証する記事ではありません。ドラマの登場人物や物語の展開について、いろいろ筆者の個人的な感想や考察を述べていく記事となっています。

大河ドラマって、あくまで「一部、史実として伝えられていることを材料に使いつつ、多くは創作を混ぜ込んだフィクション」ですから。

史実は史実として面白い一方、最新の歴史研究によっていろいろ判明しているエピソードがあったとしても、あえてそれを材料にしなかったり。または完全な創作を盛り込んだりしているところも多々あります。

だけどそれ、別に「史実だから良い」、「創作だからダメ」、なんてことはありませんからね。見る人によって、先にその歴史上の人物に対して「こういう人だろう」というイメージが先にあると、ドラマを見てぜんぜん真逆に描かれていれば「こんなの俺の知ってる○○じゃない!」と腹を立てたくなる気持ちもわかります。

ただ、そういう場合は「でも、なんでこんなキャラにしたんだろう?こうすることで、制作側はどんな物語を描こうとしているのだろう?」というところに注目できるようになれば、物語を楽しむ幅はぐっと広くなります。また、自分が信じていた「○○像」にも新たな見方が加わって、自分の感性も磨かれると思うのです。

例えば僕も、本多忠勝は、史実では父親を織田方に殺されていることから、第1回の放送時点では「織田を絶対許さないキャラ」として描かれるだろうと想像していました。けれど、ドラマではそんなこと一言も述べていませんでしたね……。

それで結局、第3回では、彼が中心となって暴れ始めたことから「これ以上、今川についていても仕方ない。織田方に寝返ろう」というムードが家臣団の中でも高まっていくのでした。

「父親が織田方に殺された」のは史実ですが、それをドラマの中で描くと、忠勝が暴れるという行動には矛盾が出てしまいますから。これも「ドラマをどう見せたいか」で、制作側が取捨選択したことの一つだと納得できるわけですね。

実の息子なのに次郎三郎の方が上?幼いころからと共に育った氏真との、両極端な描かれ方

……と、前振りが長くなりましたが。今回の「もっと深掘り」で語っていきたいのは、今川氏真です。溝端淳平さんが演じられ、第1回では貴公子的な雰囲気で描かれていましたが……どうして第4回ではあんなDV男になってしまったのか。

これ、単なる端役として見るなら「なんだかわからないけど嫌なやつになっちゃった。嫌なやつだから倒してよ主人公、元康(家康)くん」でもいいんですけど。1人のキャラクターとしてフォーカスしていくと、やっぱりすごく切ない人物だと思うですよ……。

元々、あの太守様と呼ばれた今川義元の嫡男として、立派に育っていたはずじゃないですか。松平の人質である次郎三郎(家康)より年齢は4つ上だそうで、兄弟みたいな感じで仲良くしてたとも思うんです。第1回では2人で稽古するシーンもあり、最初は派手にすっ転ぶ次郎三郎を見て「また私の勝ちか。相変わらず弱いな〜」みたいな雰囲気でした。ああいう「次郎三郎が負けて氏真が勝って」という稽古の模様は、何度も何度も繰り返されてたことがうかがえますね。

でも、氏真が「瀬名を側室にしたい」と言ったときに父・義元から命じられた勝負では、まさかの次郎三郎の大逆転。それどころか、次郎三郎からはいつも手加減されていただけということが判明しました。このときの氏真……特にセリフは無かったですが、とんでもない赤っ恥だったと思うんですよね。

しかも、桶狭間で兵糧入れとして駆り出された元康(次郎三郎から改名)は、義元から金陀美具足を授けられ、「そなたを息子と思うておる」なんて言われていました。この場面、氏真の目には見えていませんが……視聴者からすれば、「実の息子である氏真を差し置いてそんなこと言うなんて、義元、ひょっとして氏真より元康のことを大事にしてない??」みたいな危惧も感じてしまうシーンでした。もちろん、元康とその家臣たちの士気を高めるための、義元のハッタリだった可能性もありますけど……。

少なくとも、ドラマの構図としては、「義元に認められ、妻も、鎧も、決戦での大事なお役目も与えられた元康」「義元からどう思われてるか定かでもなく、自らが望んだ側室も与えられず、決戦の際にもひとり駿府に残された氏真」という両極端な立ち位置になっていたと思うんですよ。ひょっとしたら氏真こそ、戦に出たかったのかもしれない。「父上は駿府に留まって、私を織田と戦わせてください!」「いや、ならぬ」みたいなやりとりがあったかもしれないです。

一説によると、氏真はこのころすでに義元から家督を譲られていたそうで。「お前が当主なんだから、お前は城を守れ」ということであれば流れとしては自然なんですけど。ただ、少なくともドラマではそんな描写もありません。だからこそドラマとしては、「義元から認められているかは定かでない」んですよね。そこが描かれていないというだけで、氏真というキャラクターにわざと影を落としているような印象すら受けます。元康が主人公として輝けば輝くほど、対する氏真が暗く闇に沈んでいくイメージですね。

義元の死から始まる氏真の地獄。頼れる元康も、人質で脅す方法でしかつなぎとめれない闇

しかも桶狭間にて、まさかの義元の戦死。ここから氏真にとっての地獄が始まります。やはりドラマでは「父が死んだから急に家督を継いだ」ような印象。第3回の物語では、元康が無事に三河にたどり着いたという知らせを受けて「よかった、安心した」みたいな顔してましたけど、三河ことは元康に任せっきり。織田が強すぎて援軍を頼んでも、「今はそれどころではない!」とか言って、わちゃわちゃやってましたね。

ここ、具体的に何をあんなにわちゃわちゃやってたのか、ドラマでは触れられてなかったですけど……要は、今川と同盟を組んでる北条が攻められていたのでその支援が大変だったり、離反する者がいたので人事でわちゃわちゃしたりしてたみたいなんですね。

とにかく援軍は送れない。けれど、それでも元康勢を繋ぎ止めなきゃならない。その術(すべ)は何かと言ったら「こちらには三河の人質と、元康の妻子がいるぞ。こいつらの命がどうなってもいいのか」と脅すやり方しかなかったのでした。それで結果的に元康が裏切ると、人質をバッサバッサと殺していましたね……。

ただ、妻子の命だけは守りました。こちらも一説では、瀬名だけはすでに元康の元に帰っていたという話もありますけれど、ドラマでは今川領に捕らえられたままという描き方。瀬名は今川の一門である関口の娘だからおいそれと殺せなかったのか。それとも、元々は側室にしたいほど瀬名を好いていたからか。あるいは、元康をつなぎとめるための最後の人質にしたいから残したのか……いろいろ考えられますけど、一つ一つ考察していきますね。

瀬名と氏真の「夜伽のシーン」で描かれた氏真の思いと、その行動の真意とは

まず、今川の忠臣である関口の娘だからおいそれと殺せなかった、それはまずあると思います。義元亡き後で、松平だけでなく多くの者が離反していったと言いますから。その上、関口までいなくなってしまっては……というところ。ただ、ドラマではそこに関して、特にクローズアップされていませんでした。

では、元々は側室にしたいほど瀬名を好いていたから?これは考えられることではありますが、それならまず、瀬名には元康との離縁を迫ると思うんですよね。それをせず、ただの「夜伽の相手」「遊び女(め)」として奉公させるというところに、第一印象としては「男として最低」と感じさせる狙いもあった気がするんですけど。繰り返し見て深く考察していくと、それよりはむしろ「元康と離縁させない」ところが氏真にとっては重要だった気もします。

そこで最後の、元康をつなぎとめるための最後の人質にしたいから、という目的につながっていくのではと考えました。織田についた元康は、見かけの上では「今川に妻子を捨ててきた」ようにも見えますが、第4回ではまだ、強い未練を持っていました。織田信長が自分の妹・お市と結婚するよう縁談を持ちかけてくれたのにも、あまり気乗りしない様子。

そこにきて、氏真からの脅迫状ですよね。そこにつながるために、ドラマでは瀬名と氏真の夜伽のシーンも描かれていましたけど、そこにも様々な考察ポイントがあったように思います。

まず氏真は、なぜ瀬名が持っていた木彫りの兎の首を切ったのか。視聴者的には「あれは元康が瀬名に贈ったもの」とわかるのですが、よくよく考えてみれば、氏真がそれを知るハズがないんですよ。あの人形、元康が作って遊んでいた直後で、瀬名が「くださいませ」せがんだものですから。ひょっとしたら氏真は、人形の存在自体知らなかった可能性があります。

それなら、あれを見て「これは元康が作ったものだ」とすぐわかった理由。考えられるとすれば、元康が作った人形はあの兎だけではなかったということです。

元々、人形を作るのは元康の趣味だったんでしょう。それこそ第1回の序盤シーンでは、折り紙でつくったものなど、たくさんの人形を抱えていましたし。元康は家臣たちにそれを隠そうとしていましたが、ほとんど隠しきれていませんでした。さらには息子が生まれた際にも、元康は手にスズメのような人形を持っています。

ということは、氏真だって、元康がつくった人形を見ていてもおかしくない。ひょっとしたら「よくできているな、私にも一つくれぬか」みたいなことだって言っていたかもしれません。

だからこそ、瀬名が持っていた兎の人形の存在すら知らなくても、すぐに元康が作ったものだとわかった氏真。瀬名が「ただのお守りでございます。氏真様の武運長久をお祈りするための」と誤魔化しても無駄でした。

そして、氏真が激昂し、瀬名の血で書いた「たすけて せな」の手紙。瀬名の意思ではなく、氏真が書いたということに物凄い闇を感じます。つまり、瀬名自身にはあのとき、「元康に助けてほしい」という意思があったのかはまったくわからない。そもそも、関口家や子供たちを守るためとは言え、自分から瀬名は氏真への奉公に行ってるわけですから。瀬名が「たすけて」なんて求めてしまうと、彼女自身の覚悟がブレてしまうんです。

むしろ、「たすけて」という感情を抱いていたのは、氏真自身。この瞬間の氏真には、瀬名を自分のものにしたいなんて気持ちはなかったのです。それよりも、元康に助けてほしい。なんで離反してしまったんだ、あんなに忠誠を誓っていたのに……と。つまり氏真は、瀬名よりも元康を求めてああいう行動に走ったんですね。

「なんだそれBLかよっ!」とツッコミ入れられちゃいそうですけど。元々、第1回で信長が「俺の白兎」と言ったり、第2回で忠勝が元康の「わしが守るんじゃー!」にときめいていたり、「BLっぽい演出」は端々で見られていた作品ではありました。ただ、あくまで「BLっぽい」だけ。少なくとも現段階では、まだ信長だったり、忠勝だったりの元康への感情の描き方は、ホンキで「BL」と呼べるほどの域までは達してないと個人的には感じていました。

一方、第4回までの氏真について深掘りしていくと、やはりただの「幼いころから共に育った当主の嫡男と人質」というだけの感情には見えないんですよね。最初は愛情も感じていたけれど、裏切られた瞬間に強い憎しみへと変わった。愛と憎悪というものは、それこそ正反対ではなく、表裏一体です。憎いほど、相手が欲しい、奪いたい。離れていかないでくれ。どうにか帰ってきてくれ。

SNSでは、あの「たすけて」の手紙に「馬鹿馬鹿しくて笑ってしまう」という意見も見られました。確かに客観的に考えれば、氏真の行動は馬鹿馬鹿しいです。そんな脅迫の仕方あるかよ、と。しかしあの「たすけて」が氏真の心の声であり、憎むほどに元康を求めていたのだと思うと、その行動の意味も理解できますし、彼の心の闇に、見ているこっちも胸が痛むんですよね。

けれど、氏真の助けを求める声は、元康に届くことはありませんでした。届くはずがないです、あんな歪んだ愛情表現。その結果、元康も氏真と戦うことを決意。そして氏真も、「裏切った者どもに、死をもって償わせよ」と叫ぶのでした。手に入らないのであれば、殺すのみ。これほどまでにどす黒い感情があるだろうか、と思いますね。まさしく乱世です。

まだまだこの先も、元康と氏真の関係は描かれていくでしょう。ひょっとしたら過去回想なんかで、「あのとき、本当はこうだったよ」と明かされることもあるかもしれません。

さまざまなところに伏線を張りまくって、予想もつかないような回収の仕方をしていく古沢良太さんの脚本ですので、「きっとこうなんじゃない」なんて安易に予想するのもどうかと思いましたが、今回はこれだけ氏真というキャラクターが注目に値する人物として描かれていることをお伝えするために、あえて深掘りしていきました。

今回の大河のタイトルは、『どうする家康』ではありますけれど。その裏テーマには『どうする氏真』と、影の主人公としての氏真の言動や感情も細かく描かれていくような気がしています。今後も目を離してはいけないキャラの1人になりそうですね。

……と言いますか、目を離していいキャラとか、いるの⁉いるとしたらもう、第2回で討ち死にの報告が上がってた山田新右衛門(天野ひろゆき)ぐらいしか思い浮かばんよ……てか、「そんなキャラいたっけ」とか言わないであげて!

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