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【小説】総括のコンジェルトン

第一部 帝国の分裂第五章 帝都脱出作戦 ② 「ユリア様!荷物は手近なもののみです!そんな家具などは持っていけませんぞ!」 「レテウス!何を言うか!これは先祖伝来の…」 「そんなことを言ってる場合ではございません!今この瞬間に我々の未来がかかっているのですぞ!」 「レテウス!言葉を弁えなさい!それが皇族に対する…」 その時部屋の扉が勢いよく開き、大柄な男がズカズカと入り込んできた。デンゲンである。デンゲンはユリアの横面を張った。甲高い破裂音が部屋に響き渡った。 「

    • 【小説】総括のコンジェルトン

      第一部 帝国の分裂第五章 帝都脱出作戦 ① 議場の出入口はついさっきまで生きていたはずの死体がうず高く積み重なっていた。その場を立ち去る元老や関係者たちは、その死体の山を越えていかねばならなかった。 「ふう…」 死体を踏み踏み、血生臭い院内を出、ようやく外の空気を吸い込んだデンゲンはため息を付いた。 「これからどうしたものかのう…ウェド・カークの策は不発に終わったようじゃし…」 デンゲンは中庭まで出るとベンチに腰掛けた。その時―― 「もーちがおるんよ……」 「そ、その

      • 【小説】総括のコンジェルトン

        第一部 帝国の分裂第四章 西方元老会 ⑧ 「狼狽えるなッ!陣形を取れッ!」 腹が裂け、床に倒れ込みながらもグルグは檄を飛ばす。 しかし、言うは易し行うは難しというものである。指示通り密集陣形を取ろうとした者はいち早くレムロスの剣の標的となった。 「ダメだぁ!」「逃げろォ」 西方元老たちは議場の扉を開けると雪崩れるように外に逃げていく。 そうして這々の体で議場の外に出た元老たちの行く手にも黒い影が立ち塞がる。それは剣というにはあまりにも大きすぎた。大きく、分厚く、重く

        • 流刑囚の映画百物語~第82回『ヘラクレス』(’14米)

          私流刑囚がその時々で見た映画を紹介するコーナー。今夜ご紹介するのは『ヘラクレス』。 本作の5点満点評価は… コンセプト…3.5点 カメラワーク…3点 ビジュアル…2.5点 脚本…3点 総合評価…3点 英雄ヘラクレスとその仲間たちの冒険の物語。 うーん、意外と(?)面白いね。登場人物のキャラクター性にそれぞれの個性があってありきたりではない。類似作(?)でもある『バーフバリ』がその点において全くダメだったのと比べると対照的だ。やはり腐ってもアメリカはこの手のエンターテ

        【小説】総括のコンジェルトン

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          第一部 帝国の分裂第四章 西方元老会 ⑦ グルグは話を続ける。 「2つ目の事項といたしましては異種族の処遇であります。皇帝陛下は先帝リヴィアタイザー様の路線を踏襲し、異種族であっても兵団に加えられるというおつもりでしょうか。その点をはっきりさせていただきたい」 「うぅッ…」 議場での冷たい視線がエイデンに注がれた。ウェド・カークならびにコンジェルトンが不可解な失踪を遂げた今、元老院にて異種族はエイデンただ一人となっていたのだ。 「兵団に加えられる」とは、この時代にお

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          第一部 帝国の分裂第四章 西方元老会 ⑥ グルグは左手に剣を、右手に王冠を携えエリチャルドスを迎えた。 新皇帝の就任は元老院にて行われた。元老院でも長老格の人物が、新皇帝の頭に冠を被せ、肩に剣を置く。そして新皇帝は跪く体勢で宣誓を行う。これは元老院の承認によって皇帝の正統性を担保するという古来の習わしの名残である。 跪くエリチャルドスの肩に剣が載せられた。 (ここで首を刎ねてしまえばどれだけ楽だろう……) グルグは心のなかでつぶやいた。 「私、エリチャルドス・アレニ

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          第一部 帝国の分裂第四章 西方元老会 ⑤ 「はいどぉーもおお霊夢とぉお!」 「魔理沙ぁぁああだぜ!」 「ねえ魔理沙、前回は『総括のコンジェルトン前史』、どこまでお話したんだっけ?」 「ええと、霊夢。たしか魔王ゾグラフが攻めてきたところまでだったぜ!」 「魔法ゾグラフの攻勢に対し、人類はうまく迎撃体制を整えられなかったのよね」 「そうなんだぜ」 「それじゃ続きをお願い。魔理沙」 「ちょっと待つのだ!」 物陰から何者かが飛び出してきた。 「こんばんは。ボクは

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          第一部 帝国の分裂第四章 西方元老会 ③ 帝都アレニアにほど近い山中。その洞窟の奥に明かりが灯った。焚き火は小さな破裂音を発し、入り組んだ内部を照らす。 その焚き火の主はデンゲンであった。 デンゲンは焚き火を見つめながら耳を欹て外の音を聞き漏らすまいとしていた。しばらく時間が経つとコッ、コッ、とリズミカルな蹄鉄の音が聞こえてきた。 「遅れてすまない、デンゲン殿」 「焼き饅頭、食べる?」 やってきたのは元老院議員グルグであった。所謂「西方元老」の長老格でありデンゲン

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          第一部 帝国の分裂第四章 西方元老会 ② 「冗談じゃないわ!」 ユリアはいきり立った。 「子飼いの議員たちを失えば、天下の趨勢はエリチャルドス一人のものになってしまう!皇太后になる夢どころか私の生家パスアー家の権威すら失墜は必至!」 (しめしめ、ユリア様が乗ってきたな…) ターメスは内心ほくそ笑んだ。 「ユリア様、この世というのは荒野にございます。荒野の掟とはなにか?それは……敵は殺せ!殺される前に殺せ!」 「ッ…!!」 ターメスのあまりに踏み込んだ発言に、ユリアと

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          流刑囚の映画百物語~第81回『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 後章』(’24日)

          私流刑囚がその時々で見た映画を紹介するコーナー。今夜ご紹介するのは『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 後章』。 本作の5点満点評価は… コンセプト…2.5点 カメラワーク…3.5点 ビジュアル…3.5点 脚本…2点 総合評価…2.9点 うーん、駄作とまでは言わないが… 最初に良い面を挙げておくと、破壊描写はかなり徹底している。そこで手を抜いていないのは良い。 ただ、前章を見た上で本作を見ると、どうしても全体的にパワーダウンしていて馬鹿馬鹿しさが足り

          流刑囚の映画百物語~第81回『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 後章』(’24日)

          【小説】総括のコンジェルトン

          第一部 帝国の分裂第四章 西方元老会 ① 「その日」以来、御殿ではすすり泣きの声が止むことはなかった。声の主は第一皇子グレイムス、第三皇子ガルフリードの母親にして皇帝ファルムスの正妻ユリアであった。 「ううう、まさか一日して夫と我が子を一度に失うなんて…それもグレイムスは父親を毒殺したなどという濡れ衣を…こんなひどい話がありますか…」 ユリアはベッドに泣き伏せていた。 「皇后陛下、お察しいたします。涙をお拭きください」 執事であるレテウスもいい加減疲れ切っていた。

          【小説】総括のコンジェルトン

          流刑囚の映画百物語~番外編『映画ドラえもん のび太と緑の巨人伝』(’08日)

          私流刑囚がその時々で見た映画を紹介するコーナー。今夜ご紹介するのは『映画ドラえもん のび太と緑の巨人伝』。 本作の5点満点評価は… コンセプト…2.5点 カメラワーク…2.5点 ビジュアル…4点 脚本…2点 総合評価…2.8点 うーん、なにがなんだか、よくわからない話。 そもそもあの緑色のタケコプターみたいなやつは何なのか?ドラえもんのひみつ道具なら出した時に最低限の説明はしてもらいたいが。 ラストでキー(キー坊)が地球代表として演説するのもよくわからない。えっ、

          流刑囚の映画百物語~番外編『映画ドラえもん のび太と緑の巨人伝』(’08日)

          【小説】総括のコンジェルトン

          第一部 帝国の分裂第三章 その日、その時 ⑤ 「なあ、薬屋への拷問、パルムス様が独り占めしちまうのはずるいよな、せっかく若い生意気そうな女だ、俺達にだってちょっとくらい…」 「そんなこと言ってる場合じゃねえ!議員の控室にも、本人の屋敷にもウェド・カークの姿が見当たらねえって話だ!」 「なんだって!」 「都に戒厳令が出された!兵士は一般家庭だろうが店舗だろうが自由に出入りして捜索できる!急げ急げ!」 「おい、金品は盗むなよ!営倉行きだぞ!」 「つまみ食いくらいいい

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          第一部 帝国の分裂第三章 その日、その時 ④ 「ひとりごとの多い薬屋」ことミャオミャオの尋問は、誰もが拍子抜けするほどにスムーズに進んだ。 「ハイ、ハイ…確かに皇帝陛下に毒を盛ったのは私です…それを指示したのは財務卿でもあるウェド・カーク様です」 「なにッ、ウェド・カークが!」 尋問官のパルムスは驚いたフリをしてみせる。 「もちろん私はそんな申し出はお断りいたしました。ところがウェド・カーク様は、もしそんなことをすれば私はもちろん、故郷にいる私の親族まで皆殺しにする

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          第一部 帝国の分裂第三章 その日、その時 ③ フェリオは医務室の寝台の上で目を覚ました。 「ハッ、お父様ァ、お兄様ァ」 「フェリオ様、落ち着いてください!見てはなりません、お兄様を見てはなりません!お体に障ります!!」 「どういうことなの、どういうことなの!?お兄様は…お兄様は!?…ワァッ」 フェリオは顔を掌で覆い泣き伏した。 (…計画通り) その内心、フェリオはほくそ笑んでいた。実はフェリオのドレスにはダッファが用いたのと同じ型の短剣が仕込まれていた。もし彼がグ

          【小説】総括のコンジェルトン

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          第一部 帝国の分裂第三章 その日、その時 ② 元老院議会の開会に当たり、通例では時の皇帝が「開会の辞」を述べるのが習わしであった。しかし魔王大戦後初の開会となる今回は少々事情が違っていた。皇帝の挨拶の前に、皇女フェリオが言葉を述べるのだ。 フェリオが演壇に上がったとき、その場にいたすべての人々は皆大きく目を見張った。時に妊娠七ヶ月、その腹は大きく膨らんでいた。そして同時にすべての人々はこれから生まれてくるであろう子供の父親が誰であるかも悟った。彼女と懇意にあった今はなき

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