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【小説】総括のコンジェルトン

第一部 帝国の分裂第三章 その日、その時 ② 元老院議会の開会に当たり、通例では時の皇帝が「開会の辞」を述べるのが習わしであった。しかし魔王大戦後初の開会となる今回は少々事情が違っていた。皇帝の挨拶の前に、皇女フェリオが言葉を述べるのだ。 フェリオが演壇に上がったとき、その場にいたすべての人々は皆大きく目を見張った。時に妊娠七ヶ月、その腹は大きく膨らんでいた。そして同時にすべての人々はこれから生まれてくるであろう子供の父親が誰であるかも悟った。彼女と懇意にあった今はなき

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    • 流刑囚の映画百物語~第80回『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章』(’24日)

      私流刑囚がその時々で見た映画を紹介するコーナー。今夜ご紹介するのは『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章』。 本作の5点満点評価は… コンセプト…4点 カメラワーク…3.5点 ビジュアル…3.5点 脚本…4点 総合評価…3.8点 とにかく場面転換が多い映画ですね。また登場人物もやたらと多い。これは決して悪いことではなく、(特にテレビ登場後の)映画とは第一義的にスペクタクル、叙事詩を見せるものなのだからその意味で本作は王道を行っている。映画らしい映画。映

      • 【小説】総括のコンジェルトン

        第一部 帝国の分裂第三章 その日、その時 ① 彼女は「ひとりごとの多い薬屋」と呼ばれていた。常日頃からひとりごとばかり言っているせいだ。 「今日の夕ごはん、何にしようかなあ。最近は乾物のスープばかりだったからなあ。たまには新鮮なフルーツが食べたいなあ…あっ危ない!」 「ちょっと、薬屋さん!牛車に轢かれるとこだったよ!道を歩く時は前を見なよ!」 と、そんなことが日常茶飯事であった。 そんな彼女であるが、薬の調合技術は帝国内でも随一であり、その腕を買われて皇帝ファルム

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        • 【小説】総括のコンジェルトン

          第一部 帝国の分裂第二章 死せる再生者 ⑨ コンジェルトンとエイデンが都を離れていた時、とある日の真夜中、ターメスはとある場所を訪ねていた。それは代々元老院議員を務めるダッファ家の屋敷であった。 テレドトゥス・パシオヌルス・ダッファ。年齢は26歳。元老院の最年少議員である。第二皇子エリチャルドスを強く信奉している。 「なんですって! エリチャルドス様が次期皇帝から引きずり下ろされる可能性が!?」 テレドトゥスは驚愕した。彼はエリチャルドスが次期皇帝となることを微塵も疑

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          流刑囚の映画百物語~第79回『ゴッドランド/GODLAND』(’22氷、丁、仏、瑞)

          私流刑囚がその時々で見た映画を紹介するコーナー。今夜ご紹介するのは『ゴッドランド/GODLAND』。 本作の5点満点評価は… コンセプト…3.5点 カメラワーク…5点 ビジュアル…5点 脚本…3点 総合評価…4.1点 これはまたすごい映画が来た。トレーラーを見た時点で直観的にすごそうな予感がしていたが本編も裏切らない出来であった。 アイスランドという土地はもともとロケ地として人気が高く、ハリウッドの大作映画などでも頻繁にロケハンの対象となってきたのだが、アイスランド

          流刑囚の映画百物語~第79回『ゴッドランド/GODLAND』(’22氷、丁、仏、瑞)

          【小説】総括のコンジェルトン

          第一部 帝国の分裂第二章 死せる再生者 ⑧ いくつもの階段を登り降りし、いくつもの廊下の角を曲がる。と、何の変哲もない壁の手前でディトリートは立ち止まった。 「ここも迷彩魔法か」 「よくお分かりで」 ディトリートが「見えない扉」を開けるとそこはテーブルと椅子だけが置かれ、誰もいないがらんとした部屋だった。 「誰もいないようだが…」 「いやここにおるぞ。我らが英雄、コンジェルトンさん」 コンジェルトンははっとして振り返る。するとディトリートの横にはいつの間にか年老い

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          第一部 帝国の分裂第二章 死せる再生者 ⑦ 「コンジェルトンさん!起きてください!レビストロンコスの森に着きましたよ!」 引手に声をかけられコンジェルトンは目を覚ました。ここ数ヶ月、彼は馬車の中で寝てばかりの生活を送っていた。 「それにしてもこの森、どこから入ればよいのでしょう。中心集落に続く道が見当たらないですが…」 コンジェルトンは目を覚まし、周囲を見渡すと、迷彩魔法がかけられていることを直観した。 「”カメレオン”だな。複数人が迷彩魔法の網を張り、どこが入口な

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          第一部 帝国の分裂第二章 死せる再生者 ⑥ 秘密会議の数日後、コンジェルトンとエイデンは一旦都を離れた。 エイデンは生まれ故郷であるトルゴー洞窟村にて元老院議員就任の報告をすると同時に、婚姻の儀を執り行う予定があった(※1)。トルゴー洞窟は鉱山としても知られ、そこから産出される鉱物資源はドワーフ族の重要な経済基盤でもあった。また1000年ほど前まで続いていた大魔法文明時代(※2)に宝具の一つ「デヴィヌムの斧」が製作されたのもこの地である。 一方コンジェルトンはエルフ族

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          第一部 帝国の分裂第二章 死せる再生者 ⑤ 「恐怖心?」 「そう、恐怖心だよ。魔王大戦の論功行賞、帝室の跡継ぎ問題、そして自身の余命。もちろん皇帝陛下も当然それらは自覚していただろう。しかし今初めてそれが”他者の言葉”として自身に突きつけられた。それも俺達のような”末端”の若輩者によってな」 「なるほど、心理的に衝撃を与えたということか。で、これからどうなる?」 「皇帝はいわば国家の中枢神経だ。それが冒されれば、いずれ末端の機能すら冒されるだろう。あとはその速度を少

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          流刑囚の映画百物語~番外編『TAXI NY』(’04米)

          私流刑囚がその時々で見た映画を紹介するコーナー。今夜ご紹介するのは『TAXI NY』。 本作の5点満点評価は… コンセプト…2.5点 カメラワーク…2.5点 ビジュアル…2.5点 脚本…2点 総合評価…2.4点 タクシードライバーが銀行強盗の捜査に巻き込まれる、あるいは参加するという話。 Amazonプライムの紹介文には「リュック・ベッソンが放つ~」と書いてあったので嫌な予感がしたが実際のところ本作ではベッソンは製作に回り監督は別の人が務めている。ということもあり

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          【小説】総括のコンジェルトン

          第一部 帝国の分裂第二章 死せる再生者 ④ 離宮でのフェリオの告白から2日後、ウェド・カークとコンジェルトンは皇帝ファルムスに謁見することとなった。 通常であれば、如何に重臣ともあれここまで早急に皇帝への面会要請が通ることはない。しかし今回の場合は皇女フェリオが内裏に対し事前に話を通すことで特例でそれが可能となった。 「ファリオから、大体の話は聞いておる」 「はっ、恐縮の極みであります。陛下」 「たわけどもが…諸君らの魔王討伐の功績は大きい、さらばこそ、この異例と

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          第一部 帝国の分裂第二章 死せる再生者 ③ 「フェリオ様、お体は大丈夫なのですか?」 「はい、今日はその事も含めてお話に参りました」 そう言うとフェリオはターメスに退室を促す。 「ここ最近、私の体調がすぐれないことは皆さんもお気づきでしょう。その原因なのですが、実は、私は今ヒルメスの子を宿しているのです」 「なんですって!?ヒルメスの子を!」 「はい。しかし本題はここからです。私はこの子を皇帝にしたいのです」 「皇帝に?」ウェド・カークは訝しんだ。「しかしそれで

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          第一部 帝国の分裂第二章 死せる再生者 ②  「やはり、元老院職は辞退しようと思うんだ」  叙勲式の日の晩、離宮にてコンジェルトンが唐突に切り出した。勇者パーティーの一同は顔を見合わせる。  パルムスは忠告する。「いやお前は馬鹿か?一度元老院議員になってしまえば、あとは年2回、4ヶ月間都の議会に出席するだけで領地と、奴隷と、給金が一生涯保障されるんだぞ?それをわざわざ蹴ってなにがしたいんだ?」 「うん、確かに馬鹿なんだろうな。ただ私にはどうもそうやって一生ルーティン

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          第一部 帝国の分裂第二章 死せる再生者 ①  叙勲式にて。  コンジェルトンたち一行は元老院議員(※)や皇族たちとともに、謁見の間にて皇帝ファルムスを待っていた。  扉の前で太鼓が二度打ち鳴らされる。皇帝が到着したのだ。全員が膝を屈し顔を俯ける。 「皆の者、面を上げい」  コンジェルトンは即座にファルムスの顔を観察した。なるほど、ウェド・カークの言っていた通り顔色はよくない。  式典が始まる。まず元老院は今回の魔王討伐を祝い、皇帝に諡を送る。通常諡は皇帝の死後に

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          第一部 帝国の分裂第一章 英雄たちの帰還 ③ 「きゃああッパルムス様ァ」 「コンジェルトン様ー」  帝都アレニアの宮殿へと繋がる大通りは沢山の群衆と花弁、色紙に埋め尽くされた。それとともに平和を象徴する白い鳩が放たれ、その白き羽と糞もまた群衆の頭上に降り注いだ。 「私コンジェルトン様にラブレターを渡すわ!」「馬鹿コンジェルトン様は神官が本職ぞ。妻帯は許されん!」  集合住宅からは人々が手を振り、飲食店はまたとない書き入れ時と客を呼び込む。大きな建物の屋上にはクロス

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          第一部 帝国の分裂第一章 英雄たちの帰還 ②  大内裏に入ったコンジェルトンたちは起立して皇帝らを待っていた。部屋の奥の壁には縦5m横2mはあろうかという巨大な額縁に絹で仕立て上げられたであろう如何にも高級そうな幕がかけられている。  しばらくすると扉の手前からドン、ドンと二回太鼓が打ち鳴らされる。皇帝たちがやって来たのだ。コンジェルトンたちは片膝立ちの体勢になり顔を下に向ける。  扉が開く音がし、足音が近づいていくる。それはコンジェルトンたちの手前で止まった。 「諸

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