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【小説】総括のコンジェルトン
第一部 帝国の分裂
第四章 西方元老会
⑦
グルグは話を続ける。
「2つ目の事項といたしましては異種族の処遇であります。皇帝陛下は先帝リヴィアタイザー様の路線を踏襲し、異種族であっても兵団に加えられるというおつもりでしょうか。その点をはっきりさせていただきたい」
「うぅッ…」
議場での冷たい視線がエイデンに注がれた。ウェド・カークならびにコンジェルトンが不可解な失踪を遂げた今、元老院にて異種族はエイデンただ一人となっていたのだ。
「兵団に加えられる」とは、この時代において武勲を立てれば叙勲され、元老院に迎えられるということを意味していた。この時代、度重なる戦乱や飢饉の影響で、帝国内の人口は減少していた。そこにおいて兵力を維持するため、異種族を迎え入れるということは一つの解決策であった。しかしこれは既得権を享受するとともに名誉を重んじるヒト族の元老たちにとってはなかなかに許容せざるものがあったのだ。
「そして3つ目は、我々元老の持つ権利に関してです。思えば我々の先祖たちはパイオネル様(※)やさらにその父祖とともに戦国の世を平定し、帝国の礎を築き上げたのでありました。当初、皇帝の地位はあくまで議会の取りまとめ役であり、その正統性は議会の任命に拠っておりました。しかし、跡取りの不在や廃嫡などもあり、時とともにその人数は減り、役割は形骸化し、今では法案の発議権すら認められておりません。陛下、魔王ゾグラフという脅威が消えた今、もう一度帝国の創建時に立ち返るという意味においても、元老院はその権利回復を求めたい。私が今回、このような不本意な形で上奏いたしますのはこの三点にございます」
そう言うとグルグは着席した。
エリチャルドスはしばらく考え込んだような素振りを見せた後、口を開いた。
「うむ…。貴兄らの訴え、しかと承知した。今回の上奏文の内容に賛同される者は、どうか今ここでご起立願いたい。遠慮はいらぬ。私は新皇帝として貴兄等の真意を知りたいのだ。さあ起立をしてくれぬか」
議員の4割強ほどだろうか、西方元老たちは起立して自らの意思を示す。
「レムロス」
元老達が大方起立し終えたと見るに、エリチャルドスは勇者ヒルメスの弟、レムロスの名を口にした。すると玉座の後ろに垂れ下がっているカーテンが捲り上げられ、レムロスが姿を表した。
「やれぇ」
「はっ」
レムロスはマントを広げるとふわりと宙に舞い上がり、グルグの議席の手前に着地した。
グルグは起立したまま体を硬直させていた。周囲の者たちは、目の前で起きている事象を即座に理解することができなかった。
「剣が……?」
グルグ自身、自らの身に起きたことを把握するのに時間を要した。なにせそこには何ら痛みもなく、血の一滴も流れていなかったからである。しかしレムロスの剣は、グルグの左脇腹に突き刺さっていた。
レムロスは右手で柄を握り、左手で柄頭を横に押した。梃子の原理である。剣は左脇腹を右に裂いた。血は爆ぜ、はらわたが露出した。隣席の元老は返り血をもろに浴びた。その瞬間、グルグは痛みとともに、初めて自らの身に降り掛かった事態を理解した。
「があ゛あっ」
剣の軌道と同一方向に、レムロスは独楽のように回転した。そしてそのまま再び舞い上がり、回転しながら起立した元老たちを一人、また一人と斬り伏せていった。
「乱技――桜花斬!!」
桜花斬――。己の跳躍力と剣の回転による遠心力を以て連続で相手を斬り伏せる技である。使い手の姿がまるで宙を舞う花びらのように見えることからそう名付けられた。
※開祖アレニムス三世の諡である。
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