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【小説】総括のコンジェルトン
第一部 帝国の分裂
第三章 その日、その時
④
「ひとりごとの多い薬屋」ことミャオミャオの尋問は、誰もが拍子抜けするほどにスムーズに進んだ。
「ハイ、ハイ…確かに皇帝陛下に毒を盛ったのは私です…それを指示したのは財務卿でもあるウェド・カーク様です」
「なにッ、ウェド・カークが!」
尋問官のパルムスは驚いたフリをしてみせる。
「もちろん私はそんな申し出はお断りいたしました。ところがウェド・カーク様は、もしそんなことをすれば私はもちろん、故郷にいる私の親族まで皆殺しにすると…それに…」
「それに?なんだ」
「ウェド・カーク様は自分のケツモチはグレイムス様だと…なのでその後のことは万事安心されたしと…」
「なるほど、グレイムス様が次期皇帝として最有力視されていたエリチャルドス様への指名を阻止するために、皇帝陛下に毒を盛らせたとすれば辻褄が合うな…それに、グレイムス様が毒の入った包みを持っていたのは…」
パルムスは、さも自分が推理をしているというフリをした。
「はい、隙を見てグレイムス様自身がエリチャルドス様に毒を盛るとのことでした」
「なるほど…確かにそれはあり得るシナリオだ。恐らくダッファはそのことをどこかで聞きつけていたのだろう。そしてグレイムス様を……クソッ、それにしてもウェド・カークめ!このようなおぞましい企みを、よくも!」
パルムスは部下の前で激昂した姿を見せつけると宣言した。
「この薬屋め、俺が直接拷問してやる!今すぐにでも首切りおとしてやりたいが残念だ!お前たちはウェド・カークをとっ捕まえてこい!」
パルムスは薬屋を拷問部屋と連れて行った。
「あのう、これでわたしの身の安全の保障と…それと”脱税”の件は見逃していただけるのでしょうか」
と薬屋はおずおずと尋ねる。
「ああ、その点は心配いらねえ、アンタは数ヶ月ばかり軟禁状態に置かれるが、その後は大手振って自由の身さ。脱税にしても法務卿はもう籠絡してある。捜査令状一枚焼いちまえばそれで済む話さ」
ダッファを殺害した際、エイデンがわざわざ「奥義」を披露したのは法務卿への脅しの意味もあった。もし自分たちの申し出を断ればお前もこうなるぞ、お前一人の命を奪うことなど雑作もないぞ、というメッセージを込めたデモンストレーションだったのだ。
「ありがとうございます。パルムス様」
「まあいいってことよ、それより薬屋さん、またいずれアンタの腕を借りることがあるだろう、そん時はよろしく頼むぜ…」
「は、はあ…」
薬屋は内心不安な面持ちだった。自分はこれから、都での栄達と引き換えに、政争の駒として使われ続けるのでないか。そしてそれはこの世界を支配する善なる神々や、冥界に召された皇帝ファルムスへの背信にあたるのではないか、ということであった。
こうしてパルムスは薬屋を留置所へと引き渡し、部下を追ってウェド・カークの身柄確保へ向かうのであった。
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