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【小説】総括のコンジェルトン
第一部 帝国の分裂
第五章 帝都脱出作戦
②
「ユリア様!荷物は手近なもののみです!そんな家具などは持っていけませんぞ!」
「レテウス!何を言うか!これは先祖伝来の…」
「そんなことを言ってる場合ではございません!今この瞬間に我々の未来がかかっているのですぞ!」
「レテウス!言葉を弁えなさい!それが皇族に対する…」
その時部屋の扉が勢いよく開き、大柄な男がズカズカと入り込んできた。デンゲンである。デンゲンはユリアの横面を張った。甲高い破裂音が部屋に響き渡った。
「判断が遅い」
「デンゲン…」
「ユリア様、あなたは元老院での殺戮をもう忘れたのですか。エリチャルドスは本気です。このままではあなたも、ガルフリードお坊ちゃまも、良くて幽閉、飼い殺し、悪ければ処刑、間を取って暗殺といったところでしょう。グズグズしている暇はないのです。あなたの師として申し上げます。覚悟をお決めなさい」
それだけ言うとデンゲンは部屋を出ていった。
レテウスはデンゲンの後を追い礼を述べた。
「いやありがたい。ユリア様にとって私は所詮単なる使用人。生まれたときからの後見人であるそなたが言って聞かせるのはわけが違う」
「いや、ワシも皇族に手を上げるのはさすがに恐れ多い。しかし今やそうも言っておられぬ。なにせグルグはじめ西方元老達を焚き付け、死に至らしめたのは他ならぬワシなのじゃ。ならば、たとえ皇帝陛下とはいえども、刺し違えてでも本意を果たさねばならぬ…」
一方息子であるガルフリードは錯乱の最中にあった。
「ば、馬鹿な……エリチャルドスの兄貴が俺達の命を狙っているだって…。そんな…俺はそこまでして皇帝の座なんかほしくない……。俺はただ毎日遊んで暮らせりゃそれでいいんだ……。し、しかし、もし元老の連中のように……。ひ、ひぃッ……」
ガルフリードは怯えきった表情から一点、鬼のような形相へと変貌した。
「何をグズグズしているッ!荷物など最低限の食料と武器のみでよい!馬を少しでも軽くすることを考えろッ!」
そこまで言葉を発したところでガルフリードははっと何かに気付いた。
「そういえば馬はどうするのだ……。厩舎は衛兵たちに抑えられている。我が方の数百の手勢で落とせるだろうか?いや、都の中で数百もの兵士を動かせば、厩舎を襲うまでもなくエリチャルドス兄貴に察知される……。ど、ど、ど、どうすれば……」
「馬の件でしたら心配ご無用ですぞ」
背後からの声にガルフリードは振り返った。そこにはデンゲンが立っていた。
「馬の手配はこのデンゲンめが責任をもって仕りましょう」
「そ、そうか……デンゲンよ、頼んだぞ……」
デンゲンはそれだけ告げると裏口からこっそりと御殿を抜け出した。そこに待っていたのはターメスであった。
「お待ちしておりましたぞデンゲン殿。さ、早くシャドウボディを。今はとにかく物騒で時間もない。姿を消し、歩きながら作戦の説明をいたします」
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