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【小説】総括のコンジェルトン
第一部 帝国の分裂
第四章 西方元老会
⑥
グルグは左手に剣を、右手に王冠を携えエリチャルドスを迎えた。
新皇帝の就任は元老院にて行われた。元老院でも長老格の人物が、新皇帝の頭に冠を被せ、肩に剣を置く。そして新皇帝は跪く体勢で宣誓を行う。これは元老院の承認によって皇帝の正統性を担保するという古来の習わしの名残である。
跪くエリチャルドスの肩に剣が載せられた。
(ここで首を刎ねてしまえばどれだけ楽だろう……)
グルグは心のなかでつぶやいた。
「私、エリチャルドス・アレニムス・チルクンダトゥスは冥界の五正神(※1)に誓い、真実の下に政治を行い、元老院の権利を守り、民を富ませ養い、外敵を打ち払うことを宣言いたします」
エリチャルドスがそう述べるとグルグは剣を退けた。エリチャルドスはすくと立ち上がり、議場を振り返り、両腕を大きく広げた。場内は万雷の拍手に包まれた。
皆が起立する中、フェリオは着席のまま拍手を送った。表向きは陣痛がいよいよひどくなってきたためである。しかしその裏、フェリオにとってエリチャルドスは異母兄であると同時に、いずれ打倒せねばならぬ敵でもあった。それはお腹の子のためでもあり、亡き恋人ヒルメスのためであり、何より自身の野望のためである。
エリチャルドスは初めて玉座に腰を下ろした。玉座に残る前皇帝ファルムスの吐血跡は、手巾でさりげなく拭いても消えなかった。
エリチャルドスが着席したことを確認したグルグは、自らも議席に引き返した。そして着席するな否や、再び立ちあがる。その手には例の発議上奏文がしたためられたパピルスが握られていた。
「皇帝陛下、御即位誠におめでとうございます。この素晴らしき日に、われわれ元老院といたしましては3つほどの事項を、新皇帝陛下に確認させていただきたく存じます」
「何だ!何をやっている!このようなことは予定にないぞ!」
エリチャルドスに近しい「東方元老」の一人が大声を挙げた。
「衛兵は何をしている!つまみ出せ!」
その声を聞き衛兵たちはのそのそと議場に入ってきた。彼らにとってもこのような事態は想定外であり、議会という場で元老院議員の身柄を押さえてよいのかどうか、全く以て戸惑いを隠せていなかった。
エリチャルドスは衛兵たちに目をやると、真横に腕を伸ばした。「手出しは不要」という意味である。
「続けさせていただきます。今回、我々が確認させていただきたく事項は三つ。一つ目はアウゲ法典(※2)における皇位継承順位の明確化です。法典においては皇位継承順位について「男子・男系・年長者」という優先順位が記載されております。しかし慣例といたしましては、それにも増して正室から側室、はては庶子といった母親、つまり皇后陛下の身分が重視されることも少なくありませんでした」
グルグがその文言を読み上げたとき、正室であるユリアとその息子ガルフリードは内心ほくそ笑んだ。これは新皇帝に対しその正統性を問うことに他ならず、裏返せば自分たちの正統性を代弁してくれていることに等しかったからだ。
※1 太陽神ファミス、大地神マーヴァ、戦神マイミー、経済神ミャ・ダ、学問神ラーバである。それに加え混沌神ファーシスの六神が邪神(終末神)ハーディスを倒すことでこの世界は出来上がったとされる。
※2 第3代皇帝アウゲ・ホネストゥス・アレニムスによって整備された法典
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