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【小説】総括のコンジェルトン

第一部 帝国の分裂

第四章 西方元老会

「はいどぉーもおお霊夢とぉお!」

「魔理沙ぁぁああだぜ!」

「ねえ魔理沙、前回は『総括のコンジェルトン前史』、どこまでお話したんだっけ?」

「ええと、霊夢。たしか魔王ゾグラフが攻めてきたところまでだったぜ!」

「魔法ゾグラフの攻勢に対し、人類はうまく迎撃体制を整えられなかったのよね」

「そうなんだぜ」

「それじゃ続きをお願い。魔理沙」

「ちょっと待つのだ!」

物陰から何者かが飛び出してきた。

「こんばんは。ボクはずんだもんなのだ。ここからの解説は、ボクずんだもんが担当するのだ!」

ずんだもんに解説役をバトンタッチした霊夢と魔理沙は、元の焼きまんじゅうへと戻っていった。

「ヒルメスたち勇者一行がゾグラフを倒したのは、帝室と元老院、双方にとって想定外だったのだ。魔王討伐を果たせなかった帝室は威信の回復に失敗、元老院の側もろくに戦果を挙げられなかったことで自分たちの権利回復を果たせなかったのだ!」

「しかし帝室は勇者ヒルメスが皇女フェリオと恋仲にあったことを利用し、それを自らの権威回復に利用したというわけじゃな」
宮廷魔法使いデンゲンが合いの手を入れる。

「そうなのだ!ただし平民出身の自由騎士(※)と皇族との婚姻関係を認めたことは、元老院の一部との、より一層の軋轢を生んでしまったのだ!そして所謂西方元老は、今度新皇帝に就任するエリチャルドスに対し、元老院の地位と権利を再確認する上奏文を提出しようとしているのだ!」

「うむ、ずんだもんの言うとおりだ。してデンゲン殿、エリチャルドス様はこの要求を飲んでいただけるだろうか?」
西方元老の長老、グルグは問うた。

解説パートが一通り終わったことを察したずんだもんは、茂みの中に去っていった。

「あら、今回はわたしの出番は無しなのね」
四国めたんも残念そうにその後を追った。

「難しいじゃろうな…エリチャルドス様は前帝ファルムス=リヴィアタイザーのお気に入りじゃ。で、あるならばの自身の正統性を誇示するためにも、エリチャルドス様は前提の路線を踏襲する……」

「やはり、そうか……。そうならば、残された道は……」

二人の結論は一致していた。

「戦争か……」

「してグルグよ、勝算についてはどう考える?」

「うむ、今のままでは難しいじゃろう。しかし西方元老が一枚岩にまとまり、加えて東方元老を分断することができれば……」

「ちょっと魔理沙!東方ですって!」

「そうなのだぜ。一口に“エリチャルドス派=東方元老”といってもその内実は一枚岩ではないんだ霊夢。もちろんエリチャルドスのカリスマに心酔するダッファような者もいれば、内心では皇帝権力の肥大化を憂慮しつつも魔王ゾグラフという外敵と戦うために、皇帝および彼が帝都防衛の責任者として任命した皇子エリチャルドスに忠誠を誓ったという者もいるんだぜ」

「そういう者にとっては、もはや魔王ゾグラフが滅びた以上皇帝に絶対忠誠を誓うとは限らないというわけね」

それだけ言うと、霊夢と魔理沙は再び焼きまんじゅうの姿に戻った。

「まず上奏文を議会で発議し、東方元老たちを動揺させた上で懐柔工作を行う、というわけじゃな」

「その通りじゃ。上奏文の提出はワシが行う。その上で東方元老の懐柔は、お主とガルフリード様、ユリア様にお願いしたい!」

こうしてデンゲンとグルグの密談は終わった。双方合意を確認し、グルグは馬で山を降りていった。

グルグを見送ったあと、デンゲンはふと空を見上げた。山の澄んだ空気の中では、星星の煌めきを妨げるものはなにもない。

その星星の中に、一つ、異様な光を放つものがあった。

「うぬッ……あれは、死兆星ッ…!」

デンゲンの胸中に、不吉な暗雲が立ち込み始めた――。

※主君を持たない騎士。浪人のこと。

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