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【小説】総括のコンジェルトン

第一部 帝国の分裂

第四章 西方元老会

「冗談じゃないわ!」
ユリアはいきり立った。

「子飼いの議員たちを失えば、天下の趨勢はエリチャルドス一人のものになってしまう!皇太后になる夢どころか私の生家パスアー家の権威すら失墜は必至!」

(しめしめ、ユリア様が乗ってきたな…)
ターメスは内心ほくそ笑んだ。
「ユリア様、この世というのは荒野にございます。荒野の掟とはなにか?それは……敵は殺せ!殺される前に殺せ!」

「ッ…!!」
ターメスのあまりに踏み込んだ発言に、ユリアとガルフリードは絶句した。

「し、しかし、今の状況でエリチャルドスにどう立ち向かえばいいんだよ?今は皇帝周辺の警護もいつになく厳重だ。暗殺だって…」
しばらく間を開けて、ガルフリードはようやく口を開く。

「私めが引き受けましょう」
御殿の広間の奥の扉が開いた。大柄な老人が立っていた。

「デンゲン……」

宮廷魔法使いデンゲン。齢は70ほど。幼少期から小姓として元老院職パスアー家に使えつつ、ヒト族でありながら魔法学を修め賢者の称号を賜るに至った。ユリアに対してはその出生時から教育係として50年以上仕え、彼女がファルムスの后となってからは宮廷に出向してきた。大陸魔法評議会の理事会員でもある。

「私の忠実な家臣であり同時に師でもあるデンゲンよ。あなたの実力を疑うつもりはありませんが、しかし…」
ユリアは問うた。今現在帝都の軍事力は実質的にエリチャルドスの手中にある。しかも彼は魔王軍と互角以上に戦った直属部隊(現在は事実上の近衛兵団となっている)を有しており、そこには「四天王」と呼ばれる4人の腹心中の腹心も含まれていた。如何にデンゲンが優秀な魔法使いであるとはいえ、これらを相手にするのは無理があるのではないか、ということだ。

「元老院内のグレイムス派、通称”西方元老”たちをまとめ上げれば勝機はある、と…」
デンゲンの意を察したターメスは代わりに返答した。

「御意に……流石はターメス殿ですな…」
デンゲンはターメスに目をやった。しかしその目は鋭く、また冷めていた。
(ターメスめ…元老院を東西に分裂させ、争わせる気だな…)

そのターメスの背後に皇女フェリオがいることも明白であった。元老院を東西で争わせ、共に疲弊させ、その隙にフェリオが漁夫の利を得る。目的は、もうすぐ産まれるであろう彼女の子に、将来の帝室の主導権を与えるため――賢者デンゲンにはおおよその意図が読めていた。

(私は幼少期からパスアー家に仕える身。魔法学を修め、賢者の称号を得ることができたのもユリア様の父君の助力があってこそ。私が守るべきはユリア様でありその御子息たち。特にグレイムス様を失った今となっては……。東西内戦を我が方が制した後、ユリア様やガルフリード様の身にもしものことがあれば……畏れ多いことながら、たとえ皇族であろうともフェリオ様、あなたのお命を…この手で……)


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