見出し画像

【小説】総括のコンジェルトン

第一部 帝国の分裂

第四章 西方元老会

「狼狽えるなッ!陣形を取れッ!」
腹が裂け、床に倒れ込みながらもグルグは檄を飛ばす。

しかし、言うは易し行うは難しというものである。指示通り密集陣形を取ろうとした者はいち早くレムロスの剣の標的となった。

「ダメだぁ!」「逃げろォ」
西方元老たちは議場の扉を開けると雪崩れるように外に逃げていく。

そうして這々の体で議場の外に出た元老たちの行く手にも黒い影が立ち塞がる。それは剣というにはあまりにも大きすぎた。大きく、分厚く、重く、そして大雑把すぎた。それはまさに鉄塊だった。

「何者だッ」

「儂か?儂はエリチャルドス四天王の一人、黒衣のゴッツ。お前たちの血を、この龍斬剣に吸わせに来た……」

ゴッツと名乗るその男は前屈みになると振り下ろすようにして背中の大剣「龍斬剣」を抜いた。龍斬剣は抜くだけで凄まじい剣圧を生じさせ、元老の2,3人はその勢いで大理石の壁に叩きつけられ即死した。そしてその一太刀は、元老院の分厚い扉ごと10人以上の元老を一刀両断に付した。

「うわああああ」
「たっ助けてくれッ」
「ゴ、ゴッドオブ……ゴッドオブブラックフィールド!!!」

ほんの僅かな時間で、議場は血と絶叫と死体で溢れかえった。パルムス、フェリオ、デンゲン、ターメス、レテウス、その場にいたほとんどすべての人物は、その身の毛もよだつ光景を青ざめた表情で眺めていた。

「レムロス……」
しかしそんな中、唯一皇女アリシャのみが、うっとりとした表情でこの虐殺ショーの主役であり、自身の恋人でもある勇者の弟を見つめている。

「あ、あれはティタノドワーフ……」
崩れ落ちた扉の残骸を乗り越え、議場に入り込んできたゴッツを見て、エイデンは思わず呟いた。

ティタノドワーフ。通常小柄なドワーフ族に極稀に生まれる大型個体。その体躯は長身の者が多いエルフ族を凌駕し、戦闘力は通常のドワーフ族を遥かに上回る。発生確率は非常に低く、同じドワーフ族のエイデンでさえこれまでの人生でほとんどその姿を見たことはないほどであった。

「今晩、すぐにでも都を離れたほうがいいですぞ……」
その光景を眺めながらターメスはレテウスに耳打ちした。レテウスは黙って頷く。

「どうして……どうすれば……」
フェリオの受けた衝撃は凄まじいものであった。そもそもウェド・カークの策とは西方元老たちをまとめ上げ、東方元老、すなわちエリチャルドス派を倒すことであった。しかしその西方元老たちが大方虐殺されてしまった以上、その策は発動する以前、既に失敗に終っていた。

「……今回の上奏に賛同する者は?」
一連の惨劇を見終えると、エリチャルドスは議場を見回し、再度その口を開いた。最早起立する者は誰もいなかった。

「レムロス、ゴッツよ、相変わらず素晴らしい剣の腕よ。もう下がってくれ。ご苦労だったな」
新皇帝に促されると、二人はその場を立ち去った。

「……今日の議会は、これにて閉幕とする」

元老たちは憔悴しきった表情で議場を後にし始めた。

「グルグ……」
デンゲンは退室がてら、グルグの議席の前を通りがかる際、さり気なくその瞼を閉じてやった。彼は既に事切れていた。

ここから先は

0字

¥ 1,000

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?