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【小説】総括のコンジェルトン

第一部 帝国の分裂

第三章 その日、その時

フェリオは医務室の寝台の上で目を覚ました。

「ハッ、お父様ァ、お兄様ァ」

「フェリオ様、落ち着いてください!見てはなりません、お兄様を見てはなりません!お体に障ります!!」

「どういうことなの、どういうことなの!?お兄様は…お兄様は!?…ワァッ」
フェリオは顔を掌で覆い泣き伏した。

(…計画通り)
その内心、フェリオはほくそ笑んでいた。実はフェリオのドレスにはダッファが用いたのと同じ型の短剣が仕込まれていた。もし彼がグレイムスを仕留めきっていなかった場合、フェリオがこの医務室で密かにとどめを刺す算段になっていたのだ。

だが、その必要はないらしい。

「ウゥッ、お父様…お兄様…」

「これフェリオ…あまり泣き喚くでない…。見苦しいぞ」

「お父様…!?」

「皇帝陛下!お気付かれましたか!!」

「ウム…、グレイムスは、死んだのじゃな」

周囲の者たちは無言で頷いた。

「そうか、あの子には可愛そうじゃが、いい星のめぐり合わせじゃ…ワシは元々、エリチャルドスに帝位を譲るつもりだったのじゃ。気の毒だがグレイムスは…あらゆる点で…エリチャルドスに勝るものがない……」

そういうとファルムスは深く咳き込み、またしても大量に吐血した。

「皇帝陛下!」「お父様ァッ!」

「そう騒ぐな…フェリオよ、エリチャルドスを、兄を良く助け、帝国の存続に尽くすのじゃ……くれぐれも身勝手な野心など起こしてはならぬ…ガルフリード、アリシャにもこのことを…しっかりと…伝えておくのじゃ……」

ファルムスは再度吐血した。

「もうワシはそろそろらしい…視界が暗くなってきた……グレイムスよ、冥界の門を潜る前に…もう少し待っておけ…ワシも…今すぐ…そっちに行く……」

その瞬間、ファルムスはかっと目を開き身を起こした。

「皇弥栄ッ!
皇弥栄ッ!
皇弥栄ッ!!
皇帝エリチャルドス万歳!!」
そう唱えると、ファルムスは息を引き取った。

「皇帝陛下ァァァァァ」
「お父様ァァァァァ」

フェリオはファルムスの骸にすがりついて泣いた。しかしその内心は、肝を冷やし尽くしていた。

(くれぐれも身勝手な野心など…ガルフリード、アリシャにしっかりと伝えておく…)
ファルムスの最期の言葉は、フェリオの胸中を反芻していた。

(もしや皇帝は、私の企みを見抜いていた…!?)
「お父様ァァァァァ!!」
そんな胸中を悟られるわけには行かないと、フェリオは余計大袈裟に泣き喚いた。

その時。

「おい!グレイムス様の着物の中に、妙な包があるぞ!」
医務班の誰かが、パルムスによって仕込まれた包み紙を発見した。これはフェリオにとっては遅くもなく早くもないグッドタイミングであった。

「中身は茶色い粉だ!これは…もしかすると…」
「どういうことだ!?」
「これは恐らく南方で採れる毒草の一種、それが引き起こす症状は……恐ろしい!」

医務室は一転、物々しい雰囲気に包まれた。

「どうしたァ!」
タイミングを察したのだろう、パルムスが医務室に入ってきた。
「実は…」

「何ッ、皇帝陛下は、今日なにか口にされたか!?」

「はい…朝は粥と漬物、ミルクティーを…それからいつものお薬を…」

「薬!?それは誰が用意したものだ?」

「はい、例の南方より招聘した”ひとりごとの多い薬屋”にございます…」

「至急薬屋を捕縛せよ!」
パルムスは配下の者たちに号令を発した。

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