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【小説】総括のコンジェルトン

第一部 帝国の分裂

第四章 西方元老会

「その日」以来、御殿ではすすり泣きの声が止むことはなかった。声の主は第一皇子グレイムス、第三皇子ガルフリードの母親にして皇帝ファルムスの正妻ユリアであった。

「ううう、まさか一日して夫と我が子を一度に失うなんて…それもグレイムスは父親を毒殺したなどという濡れ衣を…こんなひどい話がありますか…」
ユリアはベッドに泣き伏せていた。

「皇后陛下、お察しいたします。涙をお拭きください」
執事であるレテウスもいい加減疲れ切っていた。

「はあ、お袋はまだ泣いてんのか……真実がどうあれ今更どうなる問題でもねえじゃねえか。はあ、退屈だなあ。喪中は女遊びもできないし酒も飲めないし……」
ガルフリードは母親を気遣いその御殿で寝泊まりしていた。が、この陰鬱な空気に早々参ってしまった。

「皇后陛下、レテウス様、来客です。ターメス様です」

「ターメスですって!?」
ユリアは血相を変えて飛び起きた。

「ターメス!あなたはあの奴隷の子フェリオの専属とはいえ帝室に仕える身、なぜあのとき身を挺してグレイムスを凶刃から守らなかったのですか!よくもむざむざと姿を現せたものですね!おかげ私は夫と我が子を同時に失い、夢であった皇太后になる目もなくなりました!」

その主張は誰の目から見ても八つ当たりであった。

「申し訳ございません皇后陛下!それに関してはなんら言い訳もございません!」
ターメスは手をついて詫びた。

ユリアは手に取った扇を思い切りターメスの背中に叩きつけた。ターメスはそれでも床に額を擦り付け謝罪する。

「お止めください皇后陛下!」
レテウスは必死になってユリアを静止した。

「皇后陛下、重ね重ね申し訳ございません!このような無礼で無能な私めが今日ここに参りましたのは、”その件”でお話をさせていただきたいからです!」

「”その件”ですって!?」
ユリアは肩で息をしながらも平静を取り戻した。

あまりの騒がしさに御殿の奥からガルフリードもやってきた。
「で、話ってのは何だ?」

「はい…言うまでもないことではありますが”あの日”皇帝陛下および第一皇子であらせられるグレイムス様が亡くなられました。皇帝陛下の死因は毒殺、毒を盛った実行犯は例のひとりごとの多い薬屋、指示役は財務卿であり元老院議員でもあるウェド・カーク。そしてウェド・カークの背後にはグレイムス様が…という話でした」

「濡れ衣です!グレイムスがそのようなことをするはずがない!」

「はい…実際のところ、どうであったかを私がとやかく言うつもりはございません。ただこの一連の展開で、一体誰が得をしたのかということでございます」

「ハッ…それは踊り子の息子、エリチャルドス…」

「左様でございます。そして話では毒殺計画を知り、義憤にかられてとのことですが…いずれにせよグレイムス様を殺害した元老院議員ダッファは熱烈なエリチャルドス信奉者とのことでした」

ユリアの顔はみるみる青ざめていった。
「まさか、あの踊り子の息子が…」

「で、だからどうしたってんだい。いずれにせよ第一皇子が死んじまったんだ。帝位はエリチャルドス兄貴が継ぐしかねえだろう」
ガルフリードはうんざりした調子で口を挟む。

「いえ、ことはそう単純ではございません。元老院にはグレイムス様を支持する派閥も根強く存在します。彼らはたとえグレイムス様が亡くなったからといって、そう簡単に引き下がることはないでしょう。もちろんそのことをエリチャルドス様もよく存じ上げているはず。もしエリチャルドス様がグレイムス様の暗殺を指示するような人物であった場合…」

ユリアに続き、ガルフリードの顔も青ざめていく。
「まさか、元老院の粛清を……」

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