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キリング・ミー・ソフトリー【小説】132_否国民的ヒロイン


モッシュ・ダイブが禁じられていない室内大型ロックフェスティバル、ミラーボールが輝くダンスフロアのシンセサイザーに促され、1曲目からきのピが待ってましたとばかりに飛び出る。


ステージを跨ぎ、淳と合流すればめいとの間に波乱が起きたらしく彼は既に疲れ切っていた。しかしライブが始まるとすかさず虚ろな瞳へ魂が宿り、のべつ幕なしの演奏にカッコいいと唸る。
「ちーはさ、今までの路線と違うグランジ系でも弾いてくれんの?」
「勿論。寧ろ俺の特技、余裕。」
答えると俄然、創作意欲が掻き立てられたようでスマートフォンにアイデアを収めた。


こちらはめいを探して約束の場所に移る。
彼女が大ファンと言ったピンク色を纏う歌手は、莉里さんもまた好んでおりカラオケにて聴かされた影響を受け必死に音源を揃えた、などと恥ずかしながら打ち明けたところ、めいは感激した。


「最高、エッッッモ!淳くんは絶対そんなことしないもん、あーあ。もしアキくんが弾き語ったらめっちゃ喜ぶんじゃない?活休前のライブにもわざわざ来てくれたんでしょ?」
「え?いや、どうかなあ。てか俺が真似るとか怒鳴られるヤツ。」
「全然アリだよ!ま、私が男の子に歌わせたいだけなんだけどね。」


とはいえ実際に圧巻のパフォーマンスを喰らうと強烈な衝撃が走る。震えが止まらなくなり、めいは隣で滂沱の涙を流す。
個性をも認め、包み込む。何故、彼女らが惹かれるか理解するには充分だった。


やがて一呼吸置いた淳、SNSのフォロワーと順次会い撮影会を楽しんだきのピが現れたが、過度に対照的な容姿や中身、黒に赤のちぐはぐさ。
堪えきれず笑ってしまった。
この2名が仮に単なるクラスメイトなら断じて交わらないだろう。


「そうだ!アキ、東京に好きな子いるんだって?」
突如、きのピが口火を切る。
淳に喋ったかと視線で尋ねると否定され、めいがごめんなさい、と呟く。
「提案があるんだよね。」
……嫌な予感。


それはきのピが莉里さんのアカウントフォロー後に敢えてこちらと〈さも仲良さげなツーショット〉を撮りSNSに載せ、嫉妬心を煽ることで関係を次の段階へ、という幼稚な作戦。



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