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キリング・ミー・ソフトリー【小説】131_TOKYO


以前ファンだったバンドのドラマーが児童買春・児童ポルノ禁止法違反の容疑で逮捕された際、莉里さんは激昂し、他メンバーの行く末を案じたが、今一度彼女自身に問いかけよう。
申し訳程度でもこちらを思い遣る心はあるのか?


蔑ろにされている間に飽き、価値を見出せなくなってきた。なのに街中で似た雰囲気を漂わせる者とすれ違えば無性に恋しさが募り、つい声を求め、胸には穴が開く。
資格試験を乗り越えるとまだ序盤の大学がゴールデンウィークによって再び休暇に入る。
約束通りお馴染みな5人組が揃い、フェスの為に関東を目指す。


只今就職活動中の南にも息抜きにいかが、と誘うも『志帆ちゃんが嫌がるから女の子とは遊べないんだ』との返事で驚いた。
まさかあのプレイボーイが挙げ句の果ては恋人の尻に敷かれるとは滑稽だ。


淳と会話しながら高速バスを待つと不意にメッセージの通知がくる。
めいが明日は同じアーティストのライブを観たいと言う。正直、好きな男としかまともに話せなかった彼女とここまで打ち解けたのは〈諦めきれぬ片想い〉をする友との共通点が大きく、淳は
「はあ。お前らが連むと面倒臭いんだよ。」
と頭を抱えた。だが相変わらず仲間として加わる辺り、愛すべき性格。


高速バス内では実に半年ぶりの勇吾、赤い髪が眩しいきのピ、淳の顔色を窺うめいに迎えられる。朝、東京駅付近で降ろされてもどこかを歩く莉里さんには会えやしないだろう。


連休は大体アルバイトへ明け暮れる彼女、職場はおろか引っ越し後の住所も知らない。
席順はきのピ・めい、勇吾・淳、自分の隣は永遠に空白を作った。


さて。
スタートラインから淳・めいの雲行きが危ういコンビときのピ・勇吾の陽キャ(+俺)に分かれる。
乾杯時、4月生まれな勇吾は早くもアルコールを選ぶ。
「あーいいなあ!」
フェスでビール飲むの、ずっと憧れてたわ。
その味わいを夏の楽しみに定めた。



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