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キリング・ミー・ソフトリー【小説】30_免罪符になる才能なんかいらない


スマートフォンを握りしめたまま、傷付いた様子の莉里さんをいかに慰めようか考えると新着通知が1件届く。

才能は免罪符なの?ふざけんのも大概にして欲しい。人徳?それがどうした、イメージなんざ嘘で綺麗さっぱり塗り固められるじゃん。いくらドラムが出来たってやったこと消せない。調子こくな、これからバンドはどうすんだよ』

前言撤回。彼女はとても強かった。
たまに飛び出す恐ろしげなキツい発言も、裏を返せば芯が通っている証だ。



いずれ、彼は許されるのだろう。
誠に遺憾ではあるが、同じ罪を犯した一般人ならば社会的にほぼ抹殺される場面を、芸能界というか、この業界は甘やかす。
真剣な顔で頭を垂れ、もっともらしい御託を並べた謝罪さえかませば、瞬く間に元通り……にはならなくとも幾らかの仕事は得られる。



失った信用は戻らず、熱狂的信者のみ残り、彼の復帰を待つ行為に酔いしれる、それ自体が悪いとは思わない。
俺だってあいつのプレイが好きで、あのバンドのファンだった。そこまで否定してたまるか。
人間誰しも未完成、名声や実力と引き換えに大事な何かが溢れ落ちただけでは?
しかし莉里さんに言わせれば〈そんなもの捨てちまえ〉、下手に泣かれるより却って清々しかった。



後日、例の彼が認め取り調べに対し複数と関係を持ったなどと供述したことが明らかになる。批判の声が強まり、表立って擁護する人間は去った。
過去発売した楽曲の内容をワイドショーで根掘り葉掘り取り上げられて不名誉な全国デビュー
犯罪の兆候、助長、糾弾されたバンドは裏切り者のせいで活動休止へと追い込まれてしまう。


ボーカル、ギター、ベース。火の粉を被る仲間の姿が浮かび、気が晴れぬ遣る瀬なさを嘆く。



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