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雪柳 あうこ
2021年9月20日 07:00
貴方がわたしの指に結んでくれたのは、蝶の形をした願いだった。小さな宝石のような模様を抱いて、蝶はわたしの指に棲みついた。流れる甘い血は吸い上げられ、指は鱗粉に塗れてかさついた。蝶はそれでも肥えない。痩せた願いだけが、貴方がいなくなった後も残り続けた。いつまでここにいるつもりなの。わたしは蝶の薄い翅を摘んで訊いてみる。さぁねぇ、と応えが返る。指は歳をとる。皺の間深くまで鱗粉が入り込んで、皮膚と同
2020年9月15日 22:48
去年の人は鮮やかで、去り際にも強く印象を残したけれど。今年の人は雨と共にじわりと現れて、短い蜜月のあと、すぅっと溶けるようにいなくなってしまった。来年はどんな人と出会うだろう。夏、世界を美しく見せてくれる、わたしの恋人。いつも、その後姿を追いかけてばかり。 #掌編 #小説 #花テロ #詩 #創作 #向日葵
2019年9月29日 18:31
暑さの名残の中、久しぶりに訪れた川は、きらきらと日を弾いていた。清い流れは緩く甘く、さらさらとした優しさに満ちているように見えた。足を差し入れれば、拒絶のような凛とした冷たさ。慌てて踏み込んだ先の小石の尖り。思わぬ深みと速さに弄され、脱ぎ捨てたサンダルは遥か下方へ。川は夏の終わりの全てをそそぎ、押し流されてわたしは秋になる。 #創作 #物語 #小説 #掌編 #掌編小説 #短編小説 #詩