テクノロジーと人間の距離感~パーソナルスペースに踏み入るテクノロジー~
日経電子版の記事【新時代の科学技術の行く末 ゲノム操作・AIの違和感】は、指数関数的な勢いで進化するテクノロジーに対して人間が抱く違和感、不安や恐れに関するリポートです。
テクノロジーと人間の関係、距離感は、対人関係の空間的距離感、『パーソナルスペース』と共通した側面があるように思われます。本来、対人関係についてのパーソナルスペースは、他人が侵入すると不快と認識される空間ですが、対テクノロジーについても、同様に、テクノロジーが侵入してくると不快に認識される領域がある、と考えられます。
▶ 対人関係のパーソナルスペース
=他人が侵入すると不快と認識される空間
▶ 対テクノロジーのパーソナルスペース
=テクノロジーが侵入すると不快に認識される領域
人間とテクノロジーの距離感を考察する際に、この『対テクノロジーのパーソナルスペース』という概念を用いると、記事などから、そこにはおおよそ3つの領域があるのではないか、と考えられます――
▶『テクノロジーが侵入すると不快に認識される
領域』の3つのカテゴリー
(1)サービスの『個人化』
AIや顔認証などのテクノロジーの進歩によって、ターゲティング広告、
プロファイリングなど、極度にパーソナライズされたサービスが登場。
サービスやシステムが、個人の内面にまで踏み込んでくることに、不快感
<不安<恐れを覚える。
(2)機械(道具)の『人間化』
AIやロボットなどのテクノロジーの進歩によって、機械が人間化する。
人間化した機械の、不気味の谷現象や、AIによる人間の仕事の代替など、
機械が人間の活動領域に踏み込んでくることに、不快感<不安<恐れを
覚える。
(3)テクノロジーの『神格化(超高度化)』
ゲノム編集、人工生命体、シンギュラリティなどのテクノロジーの飛躍
的な進歩が、かつて神の領域と思われていたようなコトを現実のものに
していく。テクノロジーがあまりにも高度な領域に踏み込んでいく事に
覚える不快感<不安<恐れ。そこには、『イールームの法則』のように、
テクノロジーの恩恵を受けられるコトが特権化していく事への危惧なども
含まれる。
こうしてみると、テクノロジーがパーソナルスペースに踏み込んでくることによってもたらされる『不快感<不安<恐れ』は、進化するテクノロジーが『個人化』<『人間化』<『神格化』することで惹起されてきた事、そして、放置できない深刻な課題である事が分かります。
この状況を変えるには、人間の認識が変わるか、テクノロジーのあり方が変わるか、あるいは、両者が歩み寄り、人間の幸福に繋がるような落としどころを見い出すしかありません。その結論次第で、人間の未来が大きく変わってくる事、人間の進化のベクトルが全く違ったものになってくる事は明らかです。
新たな段階に入ったテクノロジーという大きな力を得た人間は、重大な決断を下すことを迫られていると言ってもよいかも知れません。いつの間にか、資本主義のアクセラレータとしてのテクノロジーは、人間進化のアクセラレータへと変貌していたのです。
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