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コントロールプレミアム、マイノリティディスカウント、非流動性ディスカウント

コントロールプレミアム


コントロールプレミアムとは、ある企業の支配権を獲得するために買手が株式の公正価値: Fair Valueを超えて支払う金額のことを言う。
コントロール プレミアムを支払う買手は、対象会社のキャッシュ フロー、および重要な資産の取得や処分等、事業・経営の支配が可能になる。

一般的にDCF法で使用するアンレバードFCFおよびEBITDAは3つのC (Core, Continuing, Controlled)を満たしているものを考慮する。これを踏まえれば「コントロール プレミアムを支払う買手は、対象会社のキャッシュ フローおよび経営戦略の支配・アクセスを得ることができる」といえよう。

支配株主(会計でいうところの報告主体の所有者)は経営戦略、設備投資の方針、資産の取得・処分の方針、経営陣の選任等、事業活動に大きく影響を与えることを決定できる。
これを踏まえると、会社を買収する時のバリュエーションで
DCF法の評価額>マイノリティベースの評価額
となるのは、経営・キャッシュフローへのアクセス度合によるギャップによるものと考えられる。

買収時にコントロールプレミアムを支払うことに合理性が認められるケースは以下であろう。
①:買収側=新株主により対象会社の利益・キャッシュフローが更に増加することが明白(シナジー等)
②:買収される会社が市場で割安に評価されており、新株主になることにより価値が増えることが見込まれること

なお、買収対象会社の事業が適切に経営されており、新株主に所有権が移ったしても追加的な企業価値の増分がない場合、コントロール プレミアムを払う合理性には乏しい。

コントロールプレミアムの水準は概ね20-30%の水準が妥当とされているが、実際にはこれを上回って支払われる場合もある。
データを取得したい場合は、非公開化の事例の株価 vs offer priceでギャップを見るのも一考である。

コントロールプレミアムの例

A社が $1,000m の EBITDA を計上し、その株式が 10x の EV/EBITDA で取引されていると仮定する。この場合、会社のバリュエーションはEVで$10,000mになる。

買手は、以下の①②のいずれかもしくは、両方を実施することによりEBITDAを増やすことができるとする
①:買収完了後に役員報酬を調整 or 現CEO を同社から解任
②:有利な購買を実施することにより、原材料費を減らす

買収した結果、A 社の EBITDAは$1,500mに 増加した。本件買収により、会社のバリュエーションは 15,000ドル (USD1,500 mn × 10x) になり、増加分の$5,000m($15,000 – $10,000) によりA社を買収する際のコントロール プレミアムを計算すると以下のようになる。
Control premium = 5,000/10,000=50%

マイノリティディスカウント

マイノリティディスカウントは、コントロールプレミアムと表裏の概念である。

通常のバリュエーション業務で類似上場会社比較法により取得したマルチプルから計算される企業価値はマイノリティベースの価値である。

この価値に対して、支配株主のもと策定された事業計画を基礎として、DCF法により計算される企業価値はコントロールベースの価値である。

よって、マイノリティベースの企業価値×(1+ Control Premium) = コントロールベースの企業価値という式が成り立つと考えられる。

一方でコントロールベースの企業価値をベースにマイノリティディスカウントを施して、マイノリティベースの企業価値を求める際には、

コントロールベースの企業価値/(1+Control premium)= マイノリティベース企業価値になる。

従って、マイノリティディスカウントの計算式は
1-(1/(1+control premium))

である

非流動性ディスカウント


よく話題になるが、一般的に投資銀行が作成するバリュエーションの資料で非流動性ディスカウントを考慮したものを見ることはまずない。

非流動性ディスカウントの数値の推計自体が困難であること、主観を大きく伴う事、アドバイザーがバリュエーションを行った際にdefenseできる情報ではない等いろいろな理由が考えられる。

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