見出し画像

財務モデリング Tutorial⑥ - 3Statement model to DCF/AVP

今回は前回作成したDCFモデルに引き続き、サマリーの作成とAVP(Analysis at Various Prices)を行っていく。前回作成したDCFによるバリュエーションのシートが完成していることが前提になるが、テクニカル的にはそこまで難しくはない。


LTM数値の計算

まずは、バリュエーションを行う際の基礎になるLTM(Last Twelve Months)の財務数値を計算するところから行う。AVPシートでは、LTMに加えてFY+1 (NTM), FY+2のマルチプルも試算することになるが、FY+1, FY+2はOperating modelのProjection期間中の数値を使用することで足りるが、LTMの数値については、バリュエーション基準日をベースに再計算する必要がある。

計算自体は四則演算で難しくないが、期間帰属を意識して計算しないといけない点には注意である。計算テーブルの例を示すと下記の通りである。

画像1

マルチプルを計算するRevenueおよびEBITDAについてバリュエーション基準日の前後の会計期間(この場合は2020Aおよび2021F)の数値を示し、今回の場合はバリュエーション基準日が2021年9月7日であるため、当該日付を軸に2020Aおよび2021Fでのportion of Revenue/portion of EBITDAを計算する。

結果として2020Aに対する比率は0.32、2021Fの数値に対する比率は0.68なのでこれらの数値をプロラタに2020A、2021Fの該当数値に乗じて合算すればLTMの数値が求められるという方法である。

なお実務においては、月次ベースのPLが入手できる場合は、このように簡便に計算せず月次の数値を使用してLTMに組みなおして計算することに留意する。

Trading compsによるバリュエーションの実施

LTMの財務数値が計算できたら、その次は市場データを取得した上で各マルチプル(EV/REVENUE, EV/EBITDA, P/E等)をLTMおよびNTMで計算してEVおよび株式価値のレンジを試算することになる。

実際の計算過程は以下のようなイメージである(あくまで参考、Trading compsの詳細は割愛)

画像2

LTMおよびFY+1でどちらの数値を参照したか忘れやすくなるのでMetricという列を追加して計算に使用した数値をリファレンスできるようにしておくと間違いにくい。なお、下段で計算されたEquity valueはFootball chart作成時に使用するテーブルにリンクさせることになる。

AVPシートの作成

続いてはAVP(Analysis at Various Prices)に関するシートである。AVPは投資銀行が作成するバリュエーションに関するディスカッションマテリアルで作成されることが多く、一般的にはOffer priceに対するマルチプルの感応度や水準を見る際に計算される。

今回のモデルは一応非上場会社を想定しているのでOffer priceに対するプレミアムの水準ではなく、DCF法に基づき試算されたEVを基礎に金額のStepを設けていることに留意されたい。完成例は以下の通りである。

画像3

EV to Equity value ブリッジを計算し、下段でマルチプルを計算している。エントリーのバリュエーションは概ねEV/EBITDAで11x-12xのレンジとなっているのでクライアントとバリュエーションの水準を議論する際に有効である。

実際に投資銀行が作成しているAVPの資料では以下のリンクが参考になるので、気になる方は見てみると良いと思う。

Goldman Sachs & Co (Page5)

Goldman Sachs & Co (Page12)

Football chartの作成

最後に、DCF、マルチプル法および純資産法で株式価値のレンジをFootball chartで示すことになる。作成のベースになるテーブルを示すと以下の通りとなる。

画像4

純資産法は本来であれば、財務DDの結果を経て純資産に対する調整項目を加味して修正時価純資産を表示することになるが今回は割愛する。そのため簿価純資産をFootball chartに参考として表示させることになる

上記のテーブルを基礎に株式価値のFootball chartを作成すると下記のようになる。

画像5

参考に、株式数で除して1株当たり価値で計算した場合は以下の通りとなる。

画像7

なお、自己株式等調整後議決権ベースの株式数は本件の場合は以下のようになる。会社法では自己株式や相互保有株式は議決権の計算の分母から除外することになっている点、単元未満株も同様に議決権を構成するものではないので調整する必要がある点は覚えておきたい。

画像6

(⋆今回のモデルは非上場会社を想定しているが、上場会社であればアナリストコンセンサス、52 week high/low, VWAP等を含めてFootball chartに表示させる点に留意が必要である)

まとめ

以上で一通り財務3表model(3statement model) to DCF/AVPの連載は終了になる。今回はあくまでも筆者の経験等をベースにした基本的な参考例ということでご理解頂ければと思うが、実際に案件に入ると財務DDによる修正、調整等が入ってくるので、モデルやバリュエーションも案件ごとの論点に応じてカスタマイズする必要が出てくる

ただ、そのためにも基本的な作成Stepやイメージを持っていた方が良いので今回の記事が参考になれば幸いである。最終的なアウトプットのディスカッションマテリアルであれば、Googleで以下のように検索すればSEC提出の付属書類が沢山出てくるのでIBの志望者や現役の方も非常に参考になると思う。

"Bank name", "Type of materials"

”Barclays”, ”valuation deck"
"Goldman Sachs", "Analysis at various prices"

財務モデルサンプル

今回使用したサンプル財務モデルのExcelファイルは下記でDLできるようにしている。ご参考になれば幸いである。

ここから先は

0字 / 1ファイル
この記事のみ ¥ 2,580