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LBOモデル作成ステップ|Path to Modeling Test|Step2

今回は前回に引き続きLBOモデルの作成ステップのうち、Step2になる。今は、予測PLの作成である。まずは全体像を見てみよう。

上記のスナップショットでは一部行を隠しており、以下の3セグメント:Parts Selling, Maintenance, Otherになる。対象会社は自動車部品を販売する会社と仮定しており、Part sellingは単純に部品販売から生じる収益で、Maintenanceは文字通り販売した部品に関するメンテナンス(補修)である。Otherはその他の事業に付随する収益である。

各セグメントにおいて上記のように売上総利益=粗利 (Gross profit)までブレークダウンできるという前提で進めていく。

仮定 (Assumptions)の作成

こちらは従前紹介している財務3表モデルの時と大きく変わらない。まずは過去の実績を整理することから始まる。初期的な分析の段階とはいえ各セグメントでケース分けしておくほうが無難である。
今回の例示では、SG&A(販売費および一般管理費)は、全体の売上高に対して比率を計算してケースを組むが、固定費と変動費に明確に区分することが難しい(例えば販売費は売上高に連動する変動費的な性質があるが賃料は固定費、人件費は売上高の増加に応じて人員数(ヘッドカウント)が増えるので変動費的な性質がある..といった点である。

本設例では、簡易的に売上高比率でケースを組むことにするが、実際にはもっと費目を細かく分けてケースを設けたり仮定を置くこともある。

ケースはCIM (Confidential Information Memorandum) に記載されているケースをマネジメントケース、それに対して更にストレスをかけたケース等を作成することが多い。セルサイドが作成するCIMの記載されている事業計画は、ホッケースティックと言われるくらいoptimistic に作成されているので、買い手はより現実的かつシビアにケースを検討することが普通である。(事業会社はシナジーを織り込むことも往々にしてあるが、PEはまずはスタンドアロンで価値を見ることが多い)

ケースの検討

次はケースの検討である。こちらも今までの財務モデリングと同様に行っていく。

売上高

売上高のケース分けは下記の通り、比較的シンプルな構成であるが、実際には業種に応じてドライバーが異なる(例えば店舗型のビジネスであれば構成要素を店舗別にする等より細かくすることになるし、サブスク型のビジネスであれば解約率等も加味して収益を計算)点には注意したい。

売上高 Caseサンプル

上記のケースでは、先述の3セグメントに関して過去の実績をLTMまで整理している。Parts sellingは単純に単価×数量、MaintenanceはParts sellingの数量のうち一定の%がMaintenanceに回ると仮定して計算している。
Maintenance rateはその計算のバックデータである。ケースの設定は青色の数値はマネジメントケース(ストレスをかけていない数値)とみて、Case2,3では過去の実績の平均など加味して計算している。
ちなみにケースを設定するときにモデルの式はOffset関数を用いてもいいし、Index, match関数を使用してもいい。
上記のピンク色のセルは、各セグメントの数字をケース別に計算しグロスアップすることで売上高合計値が出せるようになっている。

粗利

先ほど述べたように、セグメントごとに計算してケースを分けることが望ましい。ポイントとしてはParts sellingよりはmaintenance の方が粗利率が高いことが挙げられる。Maintenance rateが上がればマージンの高いセグメントの比率が高まるという仮定にしている。
なお、実際の製造業のモデルを作成する場合は売上高 - 変動費(材料費・労務費・経費)で限界利益を計算し、限界利益から固定製造間接費 (factory overhead)を控除して粗利を計算、という形式になっていることが多いので、より粒度が細かい点に注意したい。
案件を初期的に検討するIMベースの場合はPLの売上高・粗利・営業利益・EBITDAが主要項目で記載されていることが多いので、DD以降で細かいブレークダウンが取得できればそこを考慮してモデルを作成することになろう。

SG&A(販管費)のケース分け

上記のケースでは、本来別個に計算すべき人件費も含めてG&A に入れているが、人件費は実際のモデルでは人件費単価と人員数に分けてケースを分けることが多い。事業計画における人件費の単価はDDの結果から推定、採用することになるだろうし、人員数は一般的にはトップラインの成長に応じて増えることが想定される。特に人件費の単価はインフレ率が影響する点は留意したい。
人件費は本件のような製造業であれば原価計算を通じて、工場の生産部門にかかるものは製品原価に反映されるのでCOGSに含まれている。本件ではSG&Aに含まれる人件費は営業やバックオフィスのスタッフ等をイメージしてもらえれば良い。

D&A:償却費

(ここでは有形固定資産を想定)のケースもCOGSとSG&Aに帰属するものに分けて計算している。一般的な製造業では固定資産の減価償却費は原価計算を通じて各製品に含まれているが、SG&Aに帰属するものよりはCOGSに帰属するD&Aが多くなる。

Capex(設備投資)

本来はBS項目であるが、対売上高比率を計算しケースを分けている。
この設例では無形固定資産の償却費は含めていないが、一般的にはソフトウェアの償却費や、JGAAPを採用している企業であれば、過去に計上されたのれんの償却費が含まれる。今回は対象会社に過去にのれんはないという仮定である。今回の買収でのれんが発生し償却費がプロジェクションに反映されるという理解でいいであろう。ここで計算したCapexの数値はBSのモデリングの際に固定資産残高のプロジェクションに利用される。

まとめ

モデルはシートを分けずにAssumptionはPL,BSに関するものを一つのシートで行うので縦長のフォーマットになる(よく項目ごとにシートを分ける人もいるが、あれはレビューする側からすると非常に見づらいのでverticalにモデルを作成することが望ましい)

BSに関連するAssumptionは次回以降になるが、主な項目は運転資本項目(売上債権、仕入債務、棚卸資産、その他流動資産・負債)や、借入(LBOローン含む)、株主資本等である。未払法人税等も適切にスケジュールを組んで作成することに留意されたい。

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