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子どもが親に求めるもの(前編)

ウサギ仙人(ウ仙)から自己肯定感について伝授してもらっている途中の亀子であったが、

ウ仙「ところで、おぬしは『そして父になる』という映画を観たことはあるか?」

亀子「また是枝監督ですかね。福山とリリーフランキーが出ていたのですよね?」

ウ仙「そうじゃ。この映画は『赤ちゃんの取り違え事件』を題材にして家族の絆について考えさせる内容になっておる。あと半年で小学校に入学するという男の子を育てていたら、産婦人科から電話がかかってきて『赤ちゃんを取り違えていた』という事実を知らされるんじゃ。それがわかったら、『元に戻しましょう』となって、福山が父の家庭とリリーフランキーが父の家庭の男の子の交換をするのじゃな。男の子からすれば、今まで6年間育ててくれた両親が『他人だった』といわれてもパニックなるだけじゃ。しかし福山の家庭とリリーフランキーの家庭では雰囲気が違って、福山の家庭はエリートで裕福な家庭だが、家族全員一緒に過ごす時間が少なく、リリーフランキーの家庭は経済的には厳しいが、家族全員が身を寄せ合って生きているという設定になっている。映画の結末としては、福山が子どもと向き合って『父親として大事なこと』を自覚するということで、こういうタイトルになっておるんじゃな」

映画『そして父になる』詳細なあらすじ

亀子「結局、血のつながりと6年間の育ちはどっちが大きかったんですか?」

ウ仙「この映画では、その答えを出していないんじゃ。観た人間が自分で判断するようになっておる」

亀子「ウサギ仙人様的には是枝作品の家族の絆はダメなんですよね?」

ウ仙「必ずしもそういうわけではないのじゃ。この映画ではリリーフランキーの家庭のほうが、たしかに『家族の絆』の分があるじゃろ」

亀子「へー意外ですね」

ウ仙「ただこの映画は所詮、男の子が6歳というところで止まっておる。そもそもこの映画のネタ元は、奥野修司さんが書いた『ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年』になっておるのじゃ」

亀子「その本はどんな内容なのですか?」

ウ仙「これは昭和46年に沖縄市で実際に起きた『赤ちゃん取り違え事件』を追ったノンフィクションなんじゃ。『事実は小説よりも奇なり』という言葉の通り、映画の内容よりもはるかに驚愕のことが起きていくのじゃ」

亀子「森友学園の籠池氏も国会の証人喚問で同じ言葉を使っていましたね(笑)」

ウ仙「あの問題は笑えないがな。ところで、『そして父になる』では男の子の取り違えだったのだが、この本では女の子の取り違え事件なんじゃ。年齢は同じく6歳になって、あと半年で小学校入学というところで『取り違え』だったという事実を突きつけられる」

亀子「実際には女の子なんですね」

ウ仙「今でこそ赤ちゃんが生まれたら、マジックで足に直接名前を書いたら、足首に記名されたタグをつけたりするようになっておるが、昔は取り違えがよくあったようなんじゃ。判明しないまま大人になっているケースもたくさんあったじゃろうと言われておる。しかし『取り違え』がわかると、多くの場合は『元に戻しましょう』、すなわち『血のつながり(遺伝的)を優先させよう』という話になるのじゃ」

亀子「『そして父になる』もそうですもんね」

ウ仙「6歳の子が今まで育ててくれた両親が『他人だった』と知らされても、パニックになるだけなんじゃ。交換したところで育ててくれた両親のところに帰りたがるに決まっとるんじゃ。ところが、この『ねじれた絆』は6歳で判明した取り違え事件のその後を17年間追い続けるんじゃ」

亀子「17年も?」

ウ仙「途中で、両家が同じ敷地に住んだり、親の不倫が発覚したりといろんな出来事が起こるんじゃがな」

亀子「それが驚愕のことなんですね」

ウ仙「6歳の女の子たちもな、いきなり『両親が他人だった』と言われた直後はパニックになるのじゃが、思春期を過ぎて20歳も近づいてくると、一人の大人の女性として、冷静に親のことを判断するようになるのじゃよ」

亀子「最終的に、血のつながりと6年間の育ちはどっちが大きかったんですか?」

ウ仙「そこなんじゃよ。おぬしはどう思う?」

亀子「そうですね。『人間は大きくなるにつれて親に似る』っていうので、血のつながりのような気がしますが、『育ててくれた恩』ってのも捨てがたいですね・・・」

ウ仙「この『ねじれた絆』の結末では、その答えを教えてくれるのじゃ。しかもそれが子どもが親に求めるものに直接的につながっていることがよくわかる」

亀子「もったいぶらずに早く教えてくださいよ」

ウ仙「まぁこれは話すとまた長くなるので、次回じゃな」

亀子「えーーー!こんないいところなのに。最近のTV番組と一緒じゃないですか!大事なところで『結果はCMの後』みたいな」

ウ仙「まぁそう言うな。だいたいわしは1話を書くのに、約2000字程度と決めておるんでな。これは大事なことじゃから、少しだけ待つのじゃ」

亀子はドキドキしながら、続きの話を待つのであった(後編へつづく)

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