浅野トシユキ

短編小説を書いています。「おーい、村長さん」を昨年5月に出版しました。 本、大好き。年…

浅野トシユキ

短編小説を書いています。「おーい、村長さん」を昨年5月に出版しました。 本、大好き。年間100冊ぐらいのペースで読書してます。読んだ本の感想を中心に書きます。 エッセイや短編小説も ときどき書いてます。 小説多めかな。好きな作家は宮本輝、司馬遼太郎、向田邦子。

最近の記事

【エッセイ】あの日の君を僕は忘れない

 私が保育園に通っていたときのことなので、何十年も昔のお話になる。  父の運転する軽トラックの荷台に乗りワイワイとはしゃぎながら山の中にある保育園まで送ってもらっていた。保育園に向かう道路の上には車に轢かれたカエルがぺちゃんこになったままよく放置され、まるで「ど根性ガエル」のようになっていた。保育園の裏山には大きなグラウンドがあり、先生に引率されてみんなでよく遊びに行った。  ある時、グラウンドで遊んでいる途中急にトイレに行きたくなり友達のケイ君と連れだって草むらの中に入り二

    • 本を出版しました。

      こんにちは。 今回、本を出版しました。 タイトルは おーい、村長さん です。 短編小説集です。 一話目。 おーい、村長さん 双子の弟が、兄が村長をしている村役場へいく。兄は重病で入院していた。そこで村役場の人たちが・・・。 二話目。 お豆腐ください 秋田から就職のため名古屋の豆腐屋さんにやってきた少女・奈津。 そこで繰り広げられる名古屋の人たちとの交流の中で・・・。 三話目。 約束の場所で 北海道・鶴居村でタンチョウの撮影で出会った男女。 毎年、この場所で一緒に撮影をするため

      • 小説のタイトル、悩みませんか?

        こんにちは。 私はよく小説を書くのですが、 タイトルを決めるとき、毎回悩みます。 できればインパクトあるものにしたい。それにもちろん内容を象徴するものにしたい。でも、ネタバレにはしたくない。 と、考えるとなかなか決まらないのです。 できるだけキャッチーで、いいタイトルをつけたくて、毎回毎回悩むのです(笑)

        • 【短編小説】お薬 飲みますか

           某製薬会社の主任研究員・T氏は社長から指示された極秘プロジェクトに取り組んでいた。それは国の上層部からの依頼という、まさにトップシークレットの案件だった。その極秘プロジェクトとは「忘却する薬」の開発をすることだったのである。  ここで「おやっ」と思う方もいるかもしれない。どちらかといえば物忘れや認知症対策の「忘れない薬」を開発すべきではないのか、という声も多いだろう。だが、物事というのは、まったく別の視点で考えてみることも必要である。現代社会はあまりにも忙しく様々な問題が起

        【エッセイ】あの日の君を僕は忘れない

          【短編小説】秘密の作戦

           薄暗い寂しい部屋で私は今田と出会った。正確にいえば、再会した。私と今田は同じ高校の同級生。彼はワイシャツ一枚にスラックス。納得できないという顔をしていた。  ここは、ある地方の警察署。私の仕事は警察官。昨日、逮捕された今田時男の取り調べの担当になった。彼の容疑は暗号資産(仮想通貨)詐欺。窃盗容疑や傷害事件なら今までイヤというほど取り調べをしてきた。だが、よりによってこんな小さな町で、どうして同級生の取り調べをしなければいけないのか。それに、暗号資産という難しい案件の詐欺を、

          【短編小説】秘密の作戦

          【エッセイ】文豪はウソつかない

           北海道・函館山の夜景、沖縄の美しい海。タマネギが美味しかった淡路島や心落ち着く兼六園。これまで各地を旅してきた。  旅はその途中はもちろん、行く前のわくわく感も、帰ってから思い出すことも楽しい。 だがここ数年、旅行らしいことをほとんどしていない。一番最近の旅というと2020年1月に東京へ行ったことになる。ちょうど中国でコロナという新しい伝染病が流行っていて、世界に広まると大変なことになると言われ始めていた頃。まだ街行く人は誰もマスクをしていなかった。  東京・新宿で用

          【エッセイ】文豪はウソつかない

          【短編小説】オレとシマダ

           八王子の駅前は朝から雪が降りつづいていた。この冬一番の寒さらしい。オレとシマダは大学に向かうバスを待ちながら寒さにふるえていた。今日、二人で目標とする大学の入試がある。オレとシマダは中学、高校と同級生で何度も同じクラスになったこともあり、いわば一番の友人。オレは地味なタイプだけれど、シマダは陽気で目立つタイプ。いわゆるクラスの人気者だ。高校三年生の時、オレは弁護士、シマダは教師という高い目標を掲げて勉強していた。  それにしても入試の日から大雪とはこれから先が思いやられる。

          【短編小説】オレとシマダ

          【短編小説】黒ネコ・カールの大冒険

           深夜に友人から携帯電話がかかってきた。 「いま、ネットを見ていたら、カールが舞台化されるんだって」 友人の声は上ずっていた。 「ホントか。じゃあ、一緒に見にいこう」 そんな情報はメールでもよかったんじゃないか、と一瞬思ったものの、話をしているうちに喜んでいる自分がいた。 子供の頃のテレビアニメ「黒ネコ・カールの大冒険」は大好きで毎週欠かさず見ていた。  平和な町・キャットタウンに悪魔の化身・デスダークが突然現れる。そして町を滅茶苦茶に荒らしまわって去っていく。キ

          【短編小説】黒ネコ・カールの大冒険

          【短編小説】ある大学教授の憂鬱

           みなさん、夜はぐっすり眠れますか。  近ごろ、なかなか眠れない、眠りが浅い、という悩みをよく耳にします。  しかしながら、私はなぜかよく眠れるのです。仕事で頭を使うからでしょうか。布団に入るとあっという間に寝てしまいます。ぐっすりと毎日七時間以上は寝ています。寝れないと悩んでいらっしゃる方が信じられないほどによく眠ることができるのです。  よく眠ることと同時に、夢を見ることも多いのです。夢をみるというのはレム睡眠だ、ノンレム睡眠だ、という議論がありますけれども、その件

          【短編小説】ある大学教授の憂鬱

          【短編小説】ボクとあの子の物語

           毎朝、地下鉄で見かける色白のかわいい子がいる。スラリとして背も高くスタイルがいい。ちょっと細すぎるぐらい。さらさらの長い髪も印象的。その子を初めて見たとき、まるで突然殴られたような衝撃を感じていた。  ボクは高校を卒業し、春から名駅にあるコンピュータの専門学校に通っている。あの子も毎日、名駅で降りるみたい。でも朝は人でごった返してどこに行くのかもわからない。でも今日はあの子のすぐ後ろを歩いてる。有名なファッションの専門学校に入っていった。どおりでオシャレなわけだ。  ある日

          【短編小説】ボクとあの子の物語

          【短編小説】赤いウエディングドレス

          「女房と畳は新しいほうがよい」と昔の人は言ったものだが、先日最新型 のパソコンを購入した。私の職業は小説家でパソコンを使って原稿を書く。 使いやすそうなパソコンを選び、やっと新しい小説を完成させた。 タイトルは「赤いウエディングドレス」  主人公のミサトはショウタと恋に落ち七年間の交際の末、結婚することに。大ゲンカもし遠距離恋愛も経験したが、二人はすべてを乗り越えた。 しかしミサトの同僚・亮が一方的にミサトへ好意を寄せ嫉妬の炎を燃やす。亮はミサトに電話やメールで思い直すよ

          【短編小説】赤いウエディングドレス

          【短編小説】内科医 筧直太郎 改訂版

           私、内科医の筧直太郎と申します。現在、大学病院の勤務医をしています。ここ一、二年の外出自粛の影響もあり、心理的、精神的に影響を受けていらっしゃる患者さんが顕著に多くなっています。毎月のように楽しんでいた旅行に行けない。コンサートを観ることもなくなった。レストランでの食事も会社帰りの居酒屋も以前のようには行けない。誰もが楽しみにしていたことがほとんど否定されてしまった。  こんな日々がいつまでも続くものですから想像以上にストレスがたまっています。私の勤める大学病院にも毎日悩み

          【短編小説】内科医 筧直太郎 改訂版

          【短編小説】母への手紙

           気持ちのいい日曜の朝、近くのコンビニに行った。その途中公園で、遊ぶ若いお母さんと子どもの姿が目に入った。男の子だろうか。子どもがお母さんの周りを走り回る。思わず私も微笑みながら、自分のことを思い返した。私にはこんな思い出がなかった。 私には母がいない。私が三歳のとき、父と私をおいて家を出ていった。どうやら若い男と 一緒だったらしい。だから私には、母の記憶がほとんどない。ただ少しだけ記憶にあるのは いっしょに動物園にいってお弁当を食べたということぐらいである。  子どもの

          【短編小説】母への手紙

          【短編小説】DJシンジロー         その5 最終回

           前回、家庭の話も放送ですることができシンジローは何か満足したものを感じ、今週の放送で重大な発表をしようと胸に秘めスタジオに入った。定刻通りに番組はスタートし順調に進んだ。そして番組は終盤になる。その時、放送直前に届いたメールをスタッフから手渡された。 「さて、実は今回は私がDJとしてお話しする最後の放送となりました」 シンジローは深い思いを込めて伝えた。 「では私が紹介する最後のメールです。札幌の神川まりあさん、十二才。」 (うそだろう。別れて暮らしているまりあじゃないか

          【短編小説】DJシンジロー         その5 最終回

          【短編小説】DJシンジロー その4

           今週、シンジローはさわやかな思いでスタジオにいた。 「さて今日の相談です。大阪の美咲さん、二十四才の会社員の方からのメールです。私は三年ぐらいお付き合いをしている彼がいます。そろそろ彼と結婚したいと思っています。ただ彼の仕事が絵を描いたりするアーティストなので父が結婚を許してくれません。どうしたらいいでしょうか、というメールです」 シンジローは何かを思い出すかのようにゆっくりと目をスタジオの天井へと向けながら話し始めた。  「まずここでシリウスの結婚式をイメージした曲『き

          【短編小説】DJシンジロー その4

          【短編小説】DJシンジロー その3

           イジメについての放送があった数日後、シンジローはライブの打ち合わせでシリウスの相棒であるユウイチと都内のレコーディングスタジオで久しぶりに会っていた。いまシリウスは一時期ほどの爆発的な人気はないものの、年に数回ライブを開催し、かなりの観客数を動員していた。 「DJの評判いいらしいな」 とユウイチが声をかける。 「まあな」 とシンジローは少し不満そうに苦笑いを浮かべた。 「どうした。何かあったのか」 「そうだな」 とシンジローは目を見ないで返事をする。 「何でも言ってくれよ」

          【短編小説】DJシンジロー その3