見出し画像

【短編小説】ある大学教授の憂鬱

 みなさん、夜はぐっすり眠れますか。

 近ごろ、なかなか眠れない、眠りが浅い、という悩みをよく耳にします。

 しかしながら、私はなぜかよく眠れるのです。仕事で頭を使うからでしょうか。布団に入るとあっという間に寝てしまいます。ぐっすりと毎日七時間以上は寝ています。寝れないと悩んでいらっしゃる方が信じられないほどによく眠ることができるのです。

 よく眠ることと同時に、夢を見ることも多いのです。夢をみるというのはレム睡眠だ、ノンレム睡眠だ、という議論がありますけれども、その件については、また別の機会にお話しをしたいと思います。

 今日は、私の夢の内容についてのお話を致します。昔から「一富士、二鷹、三なすびの夢を見るといいことがある」などといいます。富士山の周辺を大きな鷹が空を舞い、その風景をなすびを食べながら眺めるといった夢でしょうか。雄大な夢ですね。これは、徳川家康が好きだったものが由来だといわれています。

 ところが、私が見た夢は少し違うのです。

 ここ数日の夢なのですが、夢の中に、十字架を背負った男が登場するのです。それも痛々しいほどに苦しんでいるのです。おまけにその人の身体は土やほこりで汚れていて、かなりやせ細っているのです。服も腰に布を巻いているだけで、あとは何も着ていません。その男をどこかで見た記憶があるのですが、どうしても思い出せません。そして、その男は私に向かって息も絶え絶えにこのように語りかけるのです。

「これからの人間の世界をあなたに託します。あとをたのみます」

 その男は、ギラギラした目をしていました。そういい終わるとガクッと首を垂れたのです。

 私は驚いて飛び起きました。恐ろしい夢を見てしまったとゾっとします。イヤな汗もかいています。思い出すだけでも寒気がしてくるのです。

 目覚めたときは、そう思うのですが、どうしても睡魔には勝てません。三分後には二度寝をしています。すると、また夢の中に再びあの男が現れるのです。

 あの男は下がっていた頭を苦しそうにゆっくりと持ち上げつつ

「わかったな。おまえに、まかせたからな。ワシはもう疲れた。二千年は長すぎたのだ」

 その男はやせ細った泥だらけの顔で声を絞り出すと、目を閉じて首を小さく左右に振り、静かにため息を吐くのです。

私は怖ろしくなり、再び目を覚ましました。

「まさか」

 そうです。みなさんはもうおわかりですね。その男は、あの人だったのです。

その次の日も、また次の日も、毎日、お話ししたような内容の夢を見るのです。

眠るたびに、再放送を見ている感覚です。ちょっぴり飽きてきましたけれど。

この夢には何か大事な意味があるのでしょうか。心配で心配で。それでも夜には睡魔に負けてしまい眠ってしまうのです。ちなみに昨日も一昨日も同じ夢を見ました。

私はどうすればよいのでしょうか。誰か教えてください。ウソではないのです。本当なのです。信じてください。信じる人はきっと救われるでしょう。

 ふと、冷静に考えてみると私の母の名前はマリといいます。母は私を身ごもっているときになぜか競馬場で働いていました。母は仕事中に急に産気づき、結局、競馬場の医務室で私を産んだといいます。ちなみに父親は誰なのか私は知りません。そういえば、親しい友人の湯田君に裏切られて無実の罪で警察に連れて行かれたこともありました。夢と何か関係があるのでしょうか。

 信じてください。これは本当の話なのです。うそではありません。

 また眠くなってきましたので、これで筆をおくことにします。みなさんが幸せになることを心からお祈りしています。おやすみなさい。 
                  ○○大学教授 家須 樹里人 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?