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【短編小説】赤いウエディングドレス

「女房と畳は新しいほうがよい」と昔の人は言ったものだが、先日最新型
のパソコンを購入した。私の職業は小説家でパソコンを使って原稿を書く。
使いやすそうなパソコンを選び、やっと新しい小説を完成させた。

タイトルは「赤いウエディングドレス」

 主人公のミサトはショウタと恋に落ち七年間の交際の末、結婚することに。大ゲンカもし遠距離恋愛も経験したが、二人はすべてを乗り越えた。
しかしミサトの同僚・亮が一方的にミサトへ好意を寄せ嫉妬の炎を燃やす。亮はミサトに電話やメールで思い直すように迫る。ミサトは困惑するが式
を挙げてしまえば諦めるだろうと思っていた。だが亮の行動はエスカレー
トするばかり。まさにストーカーだった。

 そして結婚式当日。ミサトを心配した親族がミサトの部屋を訪れると頭
から血を流したミサトの遺体が横たわり血で赤く染まったウエディングド
レスが置かれていた。亮にも連絡がとれない。ショウタはミサトの遺体を
抱きしめて泣き叫ぶ。ショウタの白いタキシードも赤く染まっていた、
というストーリー。

この小説はすべて私の妄想で書き上げ、何度も推敲し納得できる内容に
なった。書き終えて安心したのでその日は早めに床についた。

翌朝、パソコンを開くと着信メールが五十通もあった。私の編集担当から
のメールだろうか。メールを開いてみた。

—どうして、こんな結末になったの—

—何を考えているんですか—

という内容の文面ばかり。読者からのクレームだろうか。しかし今まで大
きなクレームはない。ならば誰かの誤送信だろうか。とにかくメールの件
は気にしないことにした。

次回作を書こうと思うが調子が出ないので近所の喫茶店で三時間ほど過ご
し帰宅した。パソコンを開くと今度は七十通もメールが届いていた。差出
人は「M」だった。とにかくメールを開く。

—可哀想でしょ—

—人の人生をめちゃくちゃにしないで—

はて、まったく心当たりがない。とにかく気持ちを切り替えて次の小説を
パソコンに打ち込み始めた。すると「M・S・T」という差出人からメー
ルが届く。

なんだろうかと、すぐにメールを開く。

—いまパソコンを打っているなら直してください。酷すぎる—

という文面。

はて、意味がわからない。すると三分後、再び「M・S・T」からメールが届く。

—まだわからないの。ミサトよ。ミサト。酷い小説よ。早く直して—

ミサトという女性は知らない。あえて言えば今回の「赤いウエディングドレス」に登場する「ミサト」しかいない。

「えっ」

やっと気がついた。

小説の登場人物・ミサトが私にメールを送っているのだ。確かに小説が完成してから大量のメールが届くようになった。小説のミサトならメールの内容は理解できる。だが小説の登場人物がどうやってメールを送るのだろうか。

再び、ミサトからメールが届く。

—小説の内容を変えて。1時間以内に—

小説を変更って。やっと完成したのに。だがこのままではミサトからのメールは続く。

仕方なくラストの部分を変更した。書き換えた内容はショウタが血だらけのミサトを発見し復讐を誓う。ショウタは亮を見つけ出し「ミサトを返せ」と叫びながら殴り殺すという内容。悲しい話ではあるが、ショウタが復讐をする。案外この終り方もいいかもしれない。すると三分後メールが届く。感謝の言葉を期待してメールを見た。

—これはダメ。私は死んでしまうからショウタと結婚できないわ。他の内容にして—

それから何度も何度も変更の指示があった。

—いいじゃない。これよ—

ミサトからメールが届いたのは深夜だった。

最終的な小説は次のような形に。

結婚式前日、ショウタはミサトの部屋で待機した。するとナイフを持った亮が現れショウタと揉み合う。ショウタが亮を取り押さえ警察官に引き渡す。翌日二人は無事に結婚式を挙げる。ミサトは赤ワインをこぼして赤いウエディングドレスに。その後ミサトとショウタは幸せな生活を送った、という内容だ。
 ラストが普通になってしまい、小説としてはあまり面白いものではないがミサトからやっとのことで了解が出た。

最後に、私からミサトへメールを送った。

「どうして、ミサトとショウタはハッピーエンドじゃないといけなかったの?」

すぐにミサトから返事が届く。

「このパソコンの会社名見なさいよ」

 

パソコンの会社名は「M・S社」

ミサトとショウタか。

おわり

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