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【短編小説】DJシンジロー         その5 最終回

 前回、家庭の話も放送ですることができシンジローは何か満足したものを感じ、今週の放送で重大な発表をしようと胸に秘めスタジオに入った。定刻通りに番組はスタートし順調に進んだ。そして番組は終盤になる。その時、放送直前に届いたメールをスタッフから手渡された。
「さて、実は今回は私がDJとしてお話しする最後の放送となりました」
シンジローは深い思いを込めて伝えた。
「では私が紹介する最後のメールです。札幌の神川まりあさん、十二才。」

(うそだろう。別れて暮らしているまりあじゃないか)
 シンジローの鼓動が高鳴る。

「私には、別々で暮らしているパパがいます。何年か前にパパとママは離婚しました。私は悲しかったけどママと一緒におじいちゃん、おばあちゃんのいる札幌に引っ越しました。。パパは一人で東京にいます。だからパパには何年も会っていません」

(まりあ、本当にすまなかった。)

「でも札幌に来てからママはずっと、パパの心配ばかりしていました。
『パパ、ご飯食べたかな。パパお風呂入ったかな』
と毎日、毎日ママは言っていました」
 シンジローは、言葉が胸につまってしまい声にならない。それでもなんとかメールを読みつづけた。
「『ママは昔、バンドをしていたパパのファンだったのよ』
と言っていました。私が時々、パパに会いたいよというとママは
『パパは今、仕事が忙しいから、いつかそのうちに会えるよ』
と言いました」

(俺だって会いたかったさ)

「じゃあ、パパの仕事が落ち着いたら、三人で千葉のテーマパークに行こうねと話していました」

(行こうな。まりあ)

「そのあとも
『パパは優しいんだよ』とか、
『パパは面白いんだよとか』
とママはいつもパパのことばかり毎日話していました。ママは、パパのことがずっとずっと好きだったと思います。なぜわかるのかって?それは女の勘です(笑)」

(いい子に育ったな、まりあ)

「そのママが去年、ご飯をつくっているときに気分が悪いといって動けなくなりました。
あわてて救急車をよんで病院にいきました。ママは入院しましたが、ずっとずっと苦しそうでした」

(そうだったのか)

「病院にいるとき、パパに連絡しようかと何度もママに言いました。
でもママは、
『パパが心配して仕事できなくなるからいいよ。がんばるからね』
と言いました。私もなやんだけどだまっておくことにしました」

(本当に悪かったな。まりあ)

「ママもがんばったし、私も毎日毎日病院で看病しました。でもママの病気は全然良くなりません。それでも、ママは懸命に病気を治そうとしました」

シンジローは、なかなかメールの続きが読めない。

「本当にがんばったけど、ママは先週、天国にいってしまいました」

(えっ)
 シンジローは声が出ない。メールを読もうとするが、メールの用紙が涙で濡れて読めない。
(どうして、どうして)

「ママは病院でも、パパの写真を見たりパパのCDをよく聞いていました。ママはパパのことを最後の最後まで心配していました」

(ありがとう)

「ママの最後の言葉は『まりあ、しあわせになってね。そして、いつかパパに会うことがあったらパパありがとう、仕事頑張ってね、と伝えて』でした」

(幸代、本当にありがとう。)

「いま、私はパパに会いたいです。できればパパと一緒に住みたいです。おわり」

 シンジローは、メールを読み終えるとスタジオを飛び出し、バイクに向かって走りだしていた。
                                             終わり

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