見出し画像

【短編小説】ボクとあの子の物語

 毎朝、地下鉄で見かける色白のかわいい子がいる。スラリとして背も高くスタイルがいい。ちょっと細すぎるぐらい。さらさらの長い髪も印象的。その子を初めて見たとき、まるで突然殴られたような衝撃を感じていた。
 ボクは高校を卒業し、春から名駅にあるコンピュータの専門学校に通っている。あの子も毎日、名駅で降りるみたい。でも朝は人でごった返してどこに行くのかもわからない。でも今日はあの子のすぐ後ろを歩いてる。有名なファッションの専門学校に入っていった。どおりでオシャレなわけだ。
 ある日、いつものように名駅で地下鉄を降りて歩いていると、あの子の手からノートが落ちた。すぐ後ろを歩いていたボクはノートを拾いあの子を追いかけ、学校のビルに入る直前で声をかけた。
「ノートを落としましたよ」
やっと渡すことができた。ノートには「白鳥カオル」とかわいい字で書かれていた。
「えっ。ありがとうございます。これすごく大切なノートなんです。よかった」
かおるさんは最高の笑顔で喜んでくれた。すごくいい子みたい。
「本当に助かりました。何かお礼をさせてください。でも、いま時間がないので連絡先を教えてください」
彼女と携帯番号の交換をした。何か夢をみているような気持ちだった。ノートを渡すときにほんの少しだけ指に触れた。やわらかい指だった。
それからボクは一日中、ふわふわとした気分で何も頭に入らなかった。カオルさんのことばかりを考えていた。
 その日の夕方、カオルさんからメールがきた。
「今度ご都合のいい日にお食事でもどうですか」
まさかの内容。もううれしくて舞い上がってしまった。
翌週、カオルさんとナナちゃん人形の下で会うことになった。夕方、約束の時間にカオルさんが小走りでやってきた。まるでナナちゃん人形のようだった。
 二人で地下街のレストランで食事をして楽しくおしゃべりした。カオルさんもゲームが大好きみたいで話が盛り上がりいつまでも話しが尽きなかった。
「また会ってくれますか」
「かおるさん」から言われてもう倒れてしまいそうだった。
「もちろんです」
と応え、地下街から出た。ナナちゃん人形のところで
「ナナちゃん人形をくぐると恋愛が成就するっていいますよね」
ボクはドキドキしながらいった。
「そうなんですか。じゃあ、二人でくぐりませんか」
カオルさんは微笑みながらいってくれた。
「じゃあ」
といって二人でくぐった。見つめ合って笑い合った。
そのまま散歩して、人気のない公園にきた。
ベンチに座り、何かいい雰囲気になっていた。
見つめ合って、キスをしようとしたとき、
カオルさんのあごのあたりが、ザリッという感触がした。
「ん。まさか」
ボクの足のあたりになにかが当たる感触がある。
まさか、カオルさんて……。
まあ、多様化の時代だ。これもアリかな。
ナナちゃん人形の伝説は当たっていた。
                     (了)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?