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【短編小説】オレとシマダ

 八王子の駅前は朝から雪が降りつづいていた。この冬一番の寒さらしい。オレとシマダは大学に向かうバスを待ちながら寒さにふるえていた。今日、二人で目標とする大学の入試がある。オレとシマダは中学、高校と同級生で何度も同じクラスになったこともあり、いわば一番の友人。オレは地味なタイプだけれど、シマダは陽気で目立つタイプ。いわゆるクラスの人気者だ。高校三年生の時、オレは弁護士、シマダは教師という高い目標を掲げて勉強していた。
 それにしても入試の日から大雪とはこれから先が思いやられる。入試当日は他にもトラブルが続いたけれど、なんとか無事に試験を終えた。そして二週間後、「あの日」を迎えることになる。合格発表の日である。オレは念願叶って合格したものの、シマダは残念ながら不合格。ここまでは同じように生きてきた二人が「あの日」を境にそれぞれの道を歩み始めた。

  桜が舞い散る四月、オレは目標としていた大学に入学し晴れ晴れとした気持ちだった。一方、シマダは同じ大学の通信教育を受けることになる。浪人をしている余裕などなかったらしいが、シマダは複雑な心境だっただろう。その年の夏、大学のイベントでシマダとひさびさに再会した。相変わらず元気そうにしていたが、元気に見せていただけなのかもしれない。後から知ったことだが、その頃シマダの父親が入院し、それから二年後には他界したという。
 シマダは生活のため、働かざるをえなくなった。大学の通信教育の勉強は、なんとか時間を見つけて続けていたものの仕事に追われ徐々に後回しになっていく。
 一方オレも入学後、弁護士の勉強に喜び勇んで挑んだが、あまりの難しさに挫折していた。悩んだ末に司法書士という別の資格を目指すことになった。

 シマダは苦労しながら働き、仕事先で知り合った女性と結婚した。たまにはシマダにもいいことがなければと思っていたのだが、数年後に離婚してしまう。人生なかなか思うようにいかない。
 オレは大学を卒業すると地元の小さな司法書士事務所に就職した。給料はさほどよくはなかったが、勉強する時間はたっぷりあった。だが何年も合格できずに悩み続けていた。

オレもシマダも理想と現実のギャップを痛感していた。

時は流れ、オレもシマダも五十歳となり人生の厳しさ難しさを痛感する年齢となった。その頃、街でシマダと出会った。おたがいに少々年をとっていたけれどすぐにわかった。さっそく二人で居酒屋に入り、夜遅くまで酒を酌み交わしながら人生の難しさを語り合った。それでもシマダも年相応のいい顔をしていた。また改めてゆっくり話をしようということで、その日は解散した。

  それから一月後、別の友人と話していたとき、シマダが重い病気で倒れ入院していることをきく。すぐ病院をさがしてかけつけた。シマダはベッドの上で苦しんではいたもののオレの顔をみると急に顔がほころんだ。

「またあの日のように、二人でバカなことをしたいな」

シマダは嬉しそうに話していた。

二人で高校時代の思い出を語り合い、退院後にゆっくりまた飲みに行こうと約束してオレは病室を後にした。

 だが、その一週間後、シマダは天国へと旅立っていった。あれがシマダの最後の笑顔だったのかもしれない。

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