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脚本家としてのメモ

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脚本家として考えたこと、学んだことについて書いています。
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『現在対未来、死んだ猫と明日の五千万円』 令和座第四回公演『クリエイター偏差値35』評

『現在対未来、死んだ猫と明日の五千万円』 令和座第四回公演『クリエイター偏差値35』評

麻草 郁

筆者は考える。人は誰もが言い訳を抱えている。昨日寝てなくて、間違えても許してくださいね、この前はうまくいったんですけど、ちょっとよくわからなくて、もう一回いいですか? そう繰り返しているうちに、人生は黄昏を迎え、そしてやがて消えていく。筆者は考える。人間には二種類いる、やる前に言い訳を出すタイプと、やってから言い訳を考えるタイプ。人類の歴史というものは、およそこの二種類が相互に尻尾を食

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歌詞について④

歌詞について④

歌詞について書いていたら、質問をもらった。

Twitterで思いついたことを書くように歌詞を書くのはアリなのでしょうか?

どうかな、どうだろう。今日はこのことについて考えてみよう。

思いついたことを書くようにこの「歌詞について」では、聴衆の感覚をコントロールするような押韻や母音子音の使い方などを書いてきた。だけど、歌詞であることを前提としないような、散文的な書き方の歌詞だって、この世にはたく

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歌詞について③

歌詞について③

今日も歌詞について、自分が気にしていることなどを書く。前回はこちら。

駅へ行く道を聞かれているのに、駅とはなにか、道とはなにか、みたいな話ばかりをしている気がする。あまりそういう話を喜べる人はいない。今日こそはすぐに役立つ歌詞の書き方を目指して進もう。

文字数は気にするべきかこれ以上何を失えば 心は許されるの
どれほどの痛みならば もう一度君に会える
one more time 季節ようつろわ

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歌詞について②

歌詞について②

昨日は子音と母音の使い方について書いた。

ちょっとなんだろうな、ラーメンの作り方を書くときに、麺の加水率について説明し始めるような感じになってしまったような気がする。なので、今日はもう少し抽象的な話をしたい。

あなたは歌詞で、何がしたいのだろうか。例えば韻を踏みたいのかもしれない。

韻を踏みたい歌詞の華といえば、やはり韻を踏むことだろう。漢詩の時代から、読んだときに発する音で韻を踏むのは気持

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こういうのはタイミングだから

こういうのはタイミングだから

『アリスインデッドリースクール 永遠』が、COVID-19の感染拡大の状況を鑑みての公演中止になってから、だいたい一ヶ月が経った。

 10年間、再演を続けた脚本作品を自分の手で演出する、しかもアリスインでの演出も10年ぶりだ。思い入れもあったし、たくさんの人に演者たちの姿を見て欲しかった。今でも思い出すとまだ辛い。辛かった。一ヶ月経って話せるようになるかなと思ったけど、まだ全然無理だった。

 

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演劇は、目の前にある。

演劇は、目の前にある。

 この半月で、いろいろな事を考えた。取り乱した事を悔み、反省した。前を向くために何をすればいいか、自分にできる事は何かを確かめた。あと数週間すれば、また新しいことに気づいたり、あるいは考えを改めたりもするだろう。

 ただ、いまは、こう考えている。

「人の目は前を向いている、だから前を未来、後ろを過去ととらえる。クラゲならばどうだろう。クラゲの目は円盤状の体のまわりをぐるりと取り囲んでいる。つま

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声は音

声は音

声は音、響く音。

硬く、なめらかな音、震える、ざらつく音。

音、音の連なり、重なりあう、おと。

声の輪郭を、ゆっくりと磨いて、指先で、なでて、丸めて、伸ばして、広がって、広がって、そのまま染み込んで、消えてしまう、音。

私は声、誰のものでもない声、私たちは声と声、重なり合う音、と、その連なりに現れる輪郭と、無音。から立ち上がる、何もない、という現象。

音。

文字を読む、音を聴く、その間

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記憶

記憶

【戯曲『Accept to be friend』序文】

 子供の頃は、海が好きだった。夏休みになると海に行って、泳いだり潜ったりした。若い頃には島に住み込んで土産物屋で働いて、好きなだけ海を楽しんだ。潮の香り、砂浜の感触、海水の手触り、水中メガネ越しに見える海底の生き物たち。でも、大人になって夏休みがなくなって、いつしか海は遠い存在になった。そうなってみると不思議なもので、あんなに恋い焦がれた海

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舞台役者

 初日の幕が開きました。入場時の検温、アルコール消毒、特典会では手袋を配布、などの対策はとっているものの、やはりこのご時世なにがあるかはわかりません。というわけで千秋楽までとっておく予定だった「出演者」についてのメモを公開します。

「初日は千秋楽のように、千秋楽は初日のように」を合言葉にしておりますので、実質千秋楽と同じです。ネタバレ、印象の変化など色々あるとは思いますので、観賞予定の方は観賞後

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舞台は一人じゃ作れない。

舞台は一人じゃ作れない。

 舞台演出というのは面白いもので、演出家一人では何もできない。必ず演じる人間がいて、場があり、その中で動くための最適な仕組みが存在する。そしてその「最適な仕組み」は、座組の数だけ存在するのだ。

 だからといって、毎回毎回場当たり的に仕組みを探っていては、疲弊もするし独自の色も出せない。そんなわけで、一線で活躍する演出家には、独自の「仕組み」を手にした人が多い。その人独自の演出技法があり、演者はそ

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呼吸、深呼吸、浅呼吸

呼吸、深呼吸、浅呼吸

【演技、演出についてのおぼえがき】

 ↑上記の続き。

 舞台の上でセリフを声にする、というのはつまり、客席の届くだけの音量で発声する、ということだ。舞台のサイズにもよるが、おおよそ100人ほどの劇場であれば、それなりに大きな声が必要になる。かといって「私は大きな声を出していますよ」と全身で表現してしまえば、それは「大きな声を出している人」であって、何かの役の何かの感情や状態を表すことにはならな

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なぜ、稽古が必要なのか

なぜ、稽古が必要なのか

 今日もデッドリー永遠の稽古が最高だった。舞台としての演出プラン(照明音響、場面としての画作り等)は頭の中で八割方できているのだけど、ここに演技が加わると十六割くらい良さが増す。稽古ってのはそういう良さを見つけるための時間だ。今回の座組みでは、出演者の皆が毎回成長していく姿を見せてくれるものだから、演出家としても「この良い部分を活かす演出はこれか!」といった発見がある。

 演劇を上演するには、稽

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セリフに「正しい読み方」なんて、ない。

セリフに「正しい読み方」なんて、ない。

【小説:このお話はフィクションです、実在する団体、個人、出来事(略)】

「セリフに『正しい読み方』なんて、ないんだよ」

 という言葉を、誰かが口にした。ちょっとした寸劇についての、ちょっとしたやり取りの、ちょっとした返答の一部でしかないその言葉に、その場にいる人々が曖昧に頷く。

 ぼくはその言葉に、頭の中で答える。いや、あるよ。誰の心にもある。その人なりの、その人が正しいと思う感じる読み方が

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