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記憶

【戯曲『Accept to be friend』序文】

 子供の頃は、海が好きだった。夏休みになると海に行って、泳いだり潜ったりした。若い頃には島に住み込んで土産物屋で働いて、好きなだけ海を楽しんだ。潮の香り、砂浜の感触、海水の手触り、水中メガネ越しに見える海底の生き物たち。でも、大人になって夏休みがなくなって、いつしか海は遠い存在になった。そうなってみると不思議なもので、あんなに恋い焦がれた海を身近に感じることなく生きていける。

 いまぼくは本当の海を知らない。映像や、写真でしか見ることができない。だから本当に海があるかどうかが、わからない。本当は存在する、何平方キロメートルにもわたって海上を覆うゴミの浮遊物。小さな小さなプラスチック。たくさんの生き物たちが、知らないうちに絶滅していく世界。海だけじゃない。大きな国や、小さな国で、いまでもたくさんの人々が争い、土地を奪い合い、悲しみを増やし続けている。

 ぼくはまだ、未来に住む本当の君たちを知らない。だから、本当に君たちが存在するのかどうかもわからない。もしぼくたちが絶滅する前に出会えたなら、海っていう素敵な場所があって、生き物っていうかわいい存在がいて、ぼくたちはほんの一時期、幸せに暮らしていたんだってことを伝えたい。

 まだ見ぬともだちへ、君の住む世界はどうですか?

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