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4歩歩いた先にコーヒーがある。

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私と私の推しとの妄想。 仕事に疲弊しきった主人公菫とカフェの店長でアメリカ育ち巡のほのぼのした同棲生活。
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4歩歩いた先にコーヒーがある 11

4歩歩いた先にコーヒーがある 11

 12月24日、土曜日。今日はクリスマスイブだ。土曜日で休みだし、街はどこか浮ついている。

 でも、今日は巡さんは仕事だ。土日は基本的にカフェは忙しいし、そこにクリスマスなんて忙しいに決まっている。

 朝、巡さんは準備が色々あるからといつもより早く出て行った。

「ごめんね、菫。せっかくのクリスマスイブなのに」

「ううん。気にしないでいいよ。頑張ってきてね」

「ごめんよ。行ってきます」

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4歩歩いた先にコーヒーがある 9

4歩歩いた先にコーヒーがある 9

 仕事を(というより部署を)変えて半年以上経つ。前の仕事をしていた頃は仕事に疲れすぎて帰ったらすぐに寝てしまっていたし、美容や生活、お金の管理すらもままならなかった。でも、今では家計簿も自分でつけるし、自分に使う時間を大切にしようという意識も生まれた。

 そのきっかけをくれたのは、やはり巡さんだった。規則正しい生活、程よい運動、入浴後のスキンケア、そして何より食事への気遣い。プロテインも飲んだ方

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4歩歩いた先にコーヒーがある 8

4歩歩いた先にコーヒーがある 8

 この前まで梅雨だったのに、いつの間にか明けていたらしくすっかり空は青くなり、そして暑い夏の日々が始まった。
「あっつ…」
 みんながそう軽くぼやきながら仕事をしている。生花を扱っているため事務局だけでなく競りの現場の方も冷房はガンガンかけているが、それでも配達などで外に出ると物凄く暑い。
 今日は用事があって銀行に行っていたが、本当に暑くて溶けてしまいそうだった。毎年夏を迎えるごとに暑くなってい

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花を贈る君が

花を贈る君が

※この話は「4歩歩いた先にコーヒーがある」の出会いとなる話です。

 花を贈る。それは現代こそ特別な意味合いを持つだろうが、昔では何のこともない、普通のことだった。ただきれいだから持ってきた。喜ぶだろうから買ってきた。君に似合うだろうから摘んできた。そうやって、人々の生活と花は密着していたのだ。

 俺が働くカフェの近くには、高校と大学でお世話になった先輩が働く花市場がある。その先輩は女性だが、男

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4歩歩いた先にコーヒーがある 7

4歩歩いた先にコーヒーがある 7

 仕事をしていると、よく飲み会に誘われる。お酒は好きだしみんなで飲むのも好きだから行きたいとは思うものの、だいたいは仕入れの現場では元上司たちも一緒にいて、嫌なことを思い出したりもするから、部署を異動してからは私はほとんど会社全体での飲み会にも行っていなかった。

 そんなときだった。

「加藤さん!」

 書類を運んでいると、後ろから声をかけられた。振り向くとアルバイトで働いている男性が。飯塚君

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4歩歩いた先にコーヒーがある 6(下)

4歩歩いた先にコーヒーがある 6(下)

 お姫様って、どういうことだろう。考えても考えても、わからないままだ。何か記念日だったのだろうか。いや、付き合って1年目とかそういう記念日ではない気がする。というよりも、予想できないことばかり起こっていて脳が処理できていない。非常に混乱している。

「お待たせ」

 混乱する私に対し、巡さんが颯爽と帰ってきた。

「あっ、お、お帰り・・・」

「ただいま。じゃあ、行こうか」

 そう言って巡さんは

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4歩歩いた先にコーヒーがある 6(上)

4歩歩いた先にコーヒーがある 6(上)

 あと五分もしないで定時だ。金曜日だし、今日はできれば定時に上がりたいな・・・。

「ねえ菫ちゃん、この後予定ある?」

 静香先輩が私に言った。いつもなら「ないです!」と答えるけど、

「すみません、今日は予定があって・・・・・・・・・」

「あら、そうなの?」

「はい、ほんとに、すみません」

「大丈夫よ。予定があるなら、いまやってるその入力も明日で良いわよ。そこまで急ぎのものではないから」

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4歩歩いた先にコーヒーがある 5

4歩歩いた先にコーヒーがある 5

 来てしまった。最悪だ。確認しなくてもわかる、この感覚。お腹がずんと大きな鉛が乗ったかのように重く痛くて、そして何をするにもおっくうで。いわゆる「月のモノ」が来たのである。

 運良く今日は休みだ。でも私は1日目と2日目が最大のピークであり、すなわち地獄である。その二日間はなかなかキツい時間であり、気絶したり嘔吐したりしないにしてもかなりしんどい。現に今ベッドから動きたくない。

「菫、もうそろそ

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4歩歩いた先にコーヒーがある 4

4歩歩いた先にコーヒーがある 4

 巡さんと私は、あまり休みが重なることが多くない。私は土日休みになることが多いけど、巡さんは土日に仕事が入ることが多く、なかなか2人で一日中家でゆっくりしたり、どこかに旅行に行くなどができなかった。奇跡的に休みがあったときは、二人でショッピングに出かけたり、ピクニックだと言ってお弁当を作って散歩に行ったりしていた。

 そして今日も休みがあった。もう昨日からテンションが上がってしまい、どこにいこう

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4歩歩いた先にコーヒーがある 3

4歩歩いた先にコーヒーがある 3

 気がつくと、私はだだっ広いホールにいた。中学の時の吹奏楽コンクールで来たところと造りが似ているが、それにしてはなんだか質感がホラーめいている。

 え、何ここ・・・と思っていると、いきなり上手の方の袖から元上司がやってきた。仕入れの現場にいた頃にさんざんしごかれた怖い人である。

「○×$%&'(){~=*??!!!!!」

 何を言っているのかはわからないがとりあえず怒っている。たぶんあれがで

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4歩歩いた先にコーヒーがある 2

4歩歩いた先にコーヒーがある 2

 午前中、仕事をしていると、

「お疲れ。今日一緒にお昼でもどう?」

 と、上司である静香先輩が話しかけてきた。時計を見るともう12時前。そろそろ昼休憩だ。

「あ、はい。ぜひ!」

 私は鞄からお弁当を取り出し、一緒に食堂へと歩き出した。

 短大を卒業したと同時に私は、今の花の市場関係の会社に勤めている。当初は早朝から競りの現場に出て手伝ったりとかいろいろやっていたけれど、体力的にも精神的

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4歩歩いた先にコーヒーがある 1

4歩歩いた先にコーヒーがある 1

登場人物

加藤菫(かとう すみれ)・・・主人公。花関係の仕事をしながら小説家を目指している。23歳。

曽根巡(そね じゅん)・・・菫の彼氏。半年前から同棲している。普段はカフェの店長。27歳。



 コーヒーの香りで、目が覚める。ベッドの横はきれいに枕が置かれており、普段寝相の悪い私は布団を落としがちなのに、きれいに私の体に布団が掛けられている。

 台所からは、トントンと気持ちいい音が。

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