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4歩歩いた先にコーヒーがある 1


登場人物

加藤菫(かとう すみれ)・・・主人公。花関係の仕事をしながら小説家を目指している。23歳。

曽根巡(そね じゅん)・・・菫の彼氏。半年前から同棲している。普段はカフェの店長。27歳。



 コーヒーの香りで、目が覚める。ベッドの横はきれいに枕が置かれており、普段寝相の悪い私は布団を落としがちなのに、きれいに私の体に布団が掛けられている。

 台所からは、トントンと気持ちいい音が。朝ご飯を作る音だ。

 リビングへ行くと、スラリと背の高くてシャープな目つきの男性がタマネギを切っていた。オニオンスープでも作るのだろう。

「おはよう巡さん」

 巡さんは私の声に気づくと、こちらを見て優しく笑い、

「おはよう、菫」

 思ったより低くない声で、巡さんー私の彼氏は言う。

「お腹すいた」

「ははっ。ちょっと待ってて。もうすぐできるから」

 巡さんは私より4つ上で、アメリカとのハーフでもあり、そしてカフェの店長さんだ。コーヒーが好きだからずっとカフェで働いていたらいつの間にか店長になっていたという、すごい人。好きなものを極めた人なのだ、彼は。

 そんな彼と付き合って9ヶ月。そして同棲を始めてから半年が経つ。なかなかぎこちなかったこの生活にもすっかり慣れ、穏やかに暮らしている。

 私はいすに座ってテレビをつけた。この時間はまだニュースのようで政治の話ばかり。ああでもないこうでもないと足の引っ張り合いにうんざりだ。

「菫、もうすぐ猫ちゃんの特集やるから、チャンネル変えてくれる?」

「はーい」

 私は素直にチャンネルを変えた。巡さんは猫が大好きだからだ。チャンネルを変えると、今度は芸能人のゴシップである。こんなんばっかりだな。

「できたよ」

 巡さんがお盆にフレンチトーストとオニオンスープを乗せて台所を出た。

「おおっ。今日もおいしそう!」

 そう私が言ったときだった。頬に柔らかい感触が。驚いてみると、巡さんの顔が横にあった。目が合って思わず目をそらす。

 巡さんはアメリカ生まれアメリカ育ちだから距離がかなり近くて始め合ったときから軽く引くこともあった。もう彼と出会って2年以上に経つのに、未だになれていない自分が恥ずかしい。

 でも、巡さんはそんな私に優しく言った。

「君の頬にキスをするのが、俺の1日の始まりだからさ」

 余計に顔が赤くなる。そんな私に気にもせず巡さんは私の向かいに座った。


  ーーこれは、そんな私たちの日常の記録。


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