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#葛藤
【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城「第3話 戻らない記憶」
「マキ、何かいい事あったあ?」
店はまだ準備中。派手な同僚とは違い、私はメイクや服を整えるのに倍近い時間がかかる。
鏡に向かい口紅を引く私の顔は、彼女の指摘通り昨日とまったく違っていた。目元に幸せオーラがはっきり出ている。この歳になって初めて彼氏とお付き合いしたような感じだ。
あの後、忍と2回触れるだけのキスをしてから電話番号とLINE、メールアドレスを交換した。
何故か分から
【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第8話 絡まない糸
焦げた卵焼きを食べた後にようやくお米が炊き上がる音が聞こえた。
「そう言えば、マキって何の仕事してるんだっけ?」
やはりこの質問が来たかと私は軽く身構えた。決して他意があるわけでは無い。単純に『彼女』から聞いたかも知れないが、今は記憶がないからもう一度聞きたい。そんな所だろう。
「うーん……あまりいい仕事じゃないんだよね。ほら、私って両親亡くなってているからお金貯めるのに必死だったし」
【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第9話 弘樹sideー 親友
麻衣ちゃんから連絡が来たのは、最後に店に行ったその2週間後だった。ところが店ではなく、中野にある喫茶店で話がしたいと持ちかけられた。
元々彼女の売上貢献の為にお店に行っていたのだが、何か顧客でも掴んだのだろうか?
それはそれで喜ばしい事なのだが、知らない男が麻衣ちゃんにあれこれするのも気に入らない。これはただのお節介だと思われても仕方ないが、麻衣ちゃんは田畑の大切な妹だ。そして雪の親友でも
【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第10話 弘樹sideー 覚悟
麻衣ちゃんはそのまま入院となった。俺は彼女の働くキャバクラの店長さんにどういう体調管理をさせているのかキツく追求した。
予想した通り先方から返ってきた答えはとんでもない物だったが、俺は同行している医者や研修医と違ってそこまであの店に貢献している訳では無い。悔しいけど、結局それ以上何も言えなかった。
あれをブラック企業と訴えるのは簡単なのかも知れないが、あそこで仕事をしている麻衣ちゃんが仕事を
【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第13話 忍side ー 困惑
「今回の企画ポシャったんですか?」
『ちょいと上層部で資金のやり取りで問題が出ててね。企画自体は進んでいるんだけど、下請け業者の解雇が正式に決定になったんだ』
最悪だ。今回の仕事は某遊園地の立て直し事業で、3年プランの契約だったはず。しかし大元から具体的な話が俺達下の方に降りて来ないので結局一旦こちら側も撤退、という形になったのだ。
そうなると困るのは上層部ではなく、俺達日雇い労働者だ。上
【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第15話 隔てられた距離
私は霧雨荵さんと互いの利害の一致という事でお付き合いすることになった。利害の一致と言っても100%私が得をしているだけで、彼にとっての利益は謎のままだ。
彼が私を指名して、時間の許す限り延長してくれるので店には多額の金が入り、そのお陰なのかいじめは無くなった。
霧雨さんを敵に回すと営業に響くのだろう。もしかしたら私に手出ししないよう店長が全員に通達したのかも知れない。
結局は権力と金が無い
【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第19話 捨てられないタバコ
私はいよいよ西東京市にある部屋を解約する為、隙間時間で片付けをしていた。
元々そんなに荷物のない部屋だったが、少しずつ広くなる様子を見ると、ケジメをつける時なのだと思い知らされる。
そんな矢先、珍しく雪ちゃんからLINEが来た。子育てで忙しい彼女は弘樹さんがお休みでかつ、子供を丸々面倒見てくれないと動けないはずだ。私もこの部屋に誰かを招くのはこれで最後と思い、雪ちゃんに住所を伝え彼女に西東
【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第21話 忍sideー 親愛
俺は人生初めて健康診断を受けた。総合診察の担当は内科の藤堂先生なんだが、俺の名前を見慣れているはずの先生は不思議そうにパソコンを睨みつけた。
「田畑君って一人っ子かい?」
「親も死んでるんで、もう天涯孤独っスよ」
俺はいつものように軽く笑いながらそう話す。俺は母さんに絶縁されている身なのでこれはあながち間違いでは無い。
ただ、麻衣の事は誰にも伝えないでいた。全てを知っている弘樹も職場で
【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第22話 忍sideー 襲撃
「ねえねえ、今度温泉旅行に行きたいよね」
「そうだな……」
「箱根くらいだったら行けるよね、日曜日はママさん達休み欲しがるから、平日なら休み合わせられるし」
「ああ……」
俺は澤村の話を聞きながら今日弘樹に怒鳴られた事を反芻していた。
あいつは普段全く怒らない癖に、俺と麻衣の話になると人が変わる。
今の俺に麻衣を守るチカラは無いし、あのシノブって奴が麻衣を守ってくれるのならばそれに任