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#恋愛
【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第8話 絡まない糸
焦げた卵焼きを食べた後にようやくお米が炊き上がる音が聞こえた。
「そう言えば、マキって何の仕事してるんだっけ?」
やはりこの質問が来たかと私は軽く身構えた。決して他意があるわけでは無い。単純に『彼女』から聞いたかも知れないが、今は記憶がないからもう一度聞きたい。そんな所だろう。
「うーん……あまりいい仕事じゃないんだよね。ほら、私って両親亡くなってているからお金貯めるのに必死だったし」
【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第9話 弘樹sideー 親友
麻衣ちゃんから連絡が来たのは、最後に店に行ったその2週間後だった。ところが店ではなく、中野にある喫茶店で話がしたいと持ちかけられた。
元々彼女の売上貢献の為にお店に行っていたのだが、何か顧客でも掴んだのだろうか?
それはそれで喜ばしい事なのだが、知らない男が麻衣ちゃんにあれこれするのも気に入らない。これはただのお節介だと思われても仕方ないが、麻衣ちゃんは田畑の大切な妹だ。そして雪の親友でも
【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第10話 弘樹sideー 覚悟
麻衣ちゃんはそのまま入院となった。俺は彼女の働くキャバクラの店長さんにどういう体調管理をさせているのかキツく追求した。
予想した通り先方から返ってきた答えはとんでもない物だったが、俺は同行している医者や研修医と違ってそこまであの店に貢献している訳では無い。悔しいけど、結局それ以上何も言えなかった。
あれをブラック企業と訴えるのは簡単なのかも知れないが、あそこで仕事をしている麻衣ちゃんが仕事を
【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第13話 忍side ー 困惑
「今回の企画ポシャったんですか?」
『ちょいと上層部で資金のやり取りで問題が出ててね。企画自体は進んでいるんだけど、下請け業者の解雇が正式に決定になったんだ』
最悪だ。今回の仕事は某遊園地の立て直し事業で、3年プランの契約だったはず。しかし大元から具体的な話が俺達下の方に降りて来ないので結局一旦こちら側も撤退、という形になったのだ。
そうなると困るのは上層部ではなく、俺達日雇い労働者だ。上
【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第14話 忍sideー 転職
警備のバイトを増やした事で俺の生活は何とか持ち直した。しかし長年建築関連で世話になっていた勝己さんの訃報を聞いたのはつい昨日の事だ。
死因は心筋梗塞。ヘビースモーカーだった勝己さんは相当肺もやられていたらしい。
心臓の手術もしているが、医者と嫁に止められてもタバコは死ぬまで止められないと言い張っていた。俺も他人事とは言えない。
麻衣にもタバコはやめろと言われていたが、口寂しくてどうしても
【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第15話 隔てられた距離
私は霧雨荵さんと互いの利害の一致という事でお付き合いすることになった。利害の一致と言っても100%私が得をしているだけで、彼にとっての利益は謎のままだ。
彼が私を指名して、時間の許す限り延長してくれるので店には多額の金が入り、そのお陰なのかいじめは無くなった。
霧雨さんを敵に回すと営業に響くのだろう。もしかしたら私に手出ししないよう店長が全員に通達したのかも知れない。
結局は権力と金が無い
【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第17話 忍sideー 子供
N大附属病院は意外と働きやすい場所で、俺みたいに資格を持たない奴にもみんな優しく接してくれた。
特に看護師さん達は動けない患者さんの世話をするのが大変みたいで、俺でもそこそこ役に立っているらしい。
何ヶ月働けるかな、なんてぼんやりと考えていたものが、気がついたらもう一年が経過していた。俺の後輩に当たる男性の介護助手も一人入ってくれたので、益々話しやすい環境になって万々歳だった。
丁度その
【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第28話 甘いキス
「忍っ……!」
その場にいた外科の先生は弘樹さんと何か会話をして忍に入っている管の処置をすると、回診で連れて来た2人の看護師と共に私達とすれ違いで出て行った。
「麻衣さんチャンスだよ。今なら忍も寝てるし、さっき言えなかった事きちんと伝えないと」
澤村さんに背中を押され、私は穏やかな顔で眠っている忍の真横に再び座った。全然起きる気配を見せ無い。
私はシーツから無造作に飛び出している忍の右