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「ガンダムSEED」で学ぶ海上自衛隊基礎知識

✔ガンダムSEEDという作品

 数あるガンダムシリーズの中でも、屈指の人気を誇る作品と言えます。今から20年程前の作品ですが、今見てもさほど色あせて感じません。よく話題に上がるので、最近見始めて、今折り返しくらいです。

 SEEDは、初代ガンダムシリーズを、2000年代の若者向けに作られたもので、初代を見てからSEEDを見ると、この2作品の類似点がよく分かります。ストライクの色は初代ガンダムっぽし、ザフトのMSはモノアイでザクっぽいし、アークエンジェルはホワイトベースみたいだし…。

ラミアス艦長

 ザフトには、シャアっぽい人=クルーゼ隊長(CV:関俊彦)もいるし、主人公のキラ・ヤマト(CV:保志総一朗)は初めてストライクに乗ってもすぐに乗りこなし、正式な乗員じゃない若い士官+成り行きで乗艦することになった民間人だけで、敵の攻撃をどうにか掻い潜りながら進んでいくという設定や、途中で地球に降下したり、その降下中に攻撃を受けて、目的地とズレて苦労しながら目的地に向かう点も似ています。

 違うのは、地球軍アークエンジェルの艦長が女性のラミアス少佐(CV:三石琴乃)であることと、初代のホワイトベースにはいなかった副長が存在している点ですね。他にも違う点は多々ありますが、

 キラはニュータイプではなく、コーディネーターと言う存在で、どちらかというと強化人間に近いと思います。遺伝子操作されたコーディネーターたちで構成されているザフトと、純粋な人間ナチュラルとの戦いというのが本筋ですね。

 ちなみにガンダムにはお約束の、私をイライラさせてくる不愉快な女性キャラがやっぱり出てきます。ダントツはフレイ(CV:桑島法子)ですね…ホントに嫌いです(笑)可哀そうな事があっても、可哀そうとは思えないくらい性格悪いです…。

✔艦橋とCIC

 SEEDを見ていて思った感じたことは、ちゃんと海上自衛隊の監修が入っている、ということです。今であれば、自衛隊の監修が入っていればEDに「監修(or協力) 海上自衛隊」とクレジットに入ってきますが、なんかの事情で入れられなかったのかな?と推測します。

 アークエンジェルは、一応、艦橋(ブリッジ)CICが分かれています(すぐ隣ですが)艦橋は高い場所にあって、操艦を行う所で、右側に艦長の席があり、左側に司令官席があります。(↓艦長席)

艦長席

 CICとは「コンバット・インフォメーション・センター」の略で、戦闘指揮所のことです。艦長の定座は基本的に艦橋の艦長席にありますが、CICにも艦長席はもちろんありますので、戦闘状況によっては、艦長はCICで指揮を執ります。このCICというワードが出てくれば、高い可能性で、海上自衛隊がちゃんと監修していると思われます。

 主に、CICで戦術指揮を執るのは、海上自衛隊では「船務長」と言います。海軍時代は「戦務長」と言っていたようですが、戦後「戦」の字を忌む形で「船」の字に変わりました。

 そのCICの半分が訓練も受けていない、若い民間人がいるというのは、さすがにちょっと無理がありすぎると思いますね(笑)ちなみに、海上自衛隊護衛艦のCICに民間人が立入る場合は防衛大臣の許可が必要です。

 通常、護衛艦では、環境とCICは離れていますが、アークエンジェルでは艦橋のすぐ後ろにあります。戦闘に突入した時、艦長はイチイチCICに移動しなくていい上に、命令伝達がこの方が早いので機能的だと思います。

✔副長について

  アークエンジェルの副長はバジル―ル少尉(CV:桑島法子=フレイと同じ…声優さんってすごい)ですが、艦長も副長も女性なんですね。この二人は結構バチバチしますが、普通、乗員の前で艦長に意を唱える副長なんていないらしいです。

 ですが、ラミアス艦長は少佐といえ、技術士官です。バジル―ル少尉は生粋の軍人なので、意見が合わないのはもちろん、階級上仕方ないとはいえ、技術士官に艦長の座を渡す事をが受け入れ難かったと思います。なので「戦闘の何たるかが、技術屋に分かるものか!」っていう気持ちがどうしてもあって、いちいち反発してしまうのでしょう。

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 ちなみに、艦長は「艦長」ですが、副長は他の職務と兼任しています。だいたい、船務長か機関長か航海長か砲術長のいづれかです。バジル―ル副長は、CICで戦闘指揮を執っているので、船務長兼任の副長であることが分かります。

 余談ですが、海上自衛隊には練習艦「かしま」という、初任幹部が遠洋航海に出る時専用の艦がありますが、この艦の副長だけは、相当多忙なので、兼任はなしで「副長」職だけです。(練習艦「かしま」↓)

かしま

 階級でちょっと気になったのですが、ザフトと地球軍は通常の軍隊…日本における戦前の階級と同様の呼称で「少尉」とか「少佐」となっていますが、なぜかオーブ連合首長国は「一佐(=大佐)」とか「三佐(=少佐)」と、自衛隊の呼称になっているのが不思議でした。かつお姫様の護衛役一佐というのは、ちょっと階級が高すぎるなぁと思います。

✔艦上や、停泊している艦艇の描き方

 地球に降りたアークエンジェルが色々あって、海上を航海中、キラとカガリが上甲板に出て話しているシーンがありますが、その航海中の艦上の雰囲気がものすごくよく表現されていました。

 具体的に言うなら、見ていて、航海中の艦上の風を感じられるくらいのリアルな空気感なので、恐らく製作スタッフは、何かしらの護衛艦ないしは艦艇に体験航海させてもらったのではないかと思います。

 また、 オーブ連合首長国の基地のそばの海沿いの公園は、横須賀のヴェルニー公園をモデルにしたものではないかと思われます。また、基地に停泊している艦艇の後ろ姿は、なんとなくイージス艦「あたご型」の格納庫っぽい感じでした。

 ちなみに、横須賀所属のイージス艦は護衛艦「きりしま」だけです。舞鶴には護衛艦「あたご」と「みょうこう」、佐世保には「こんごう」「ちょうかい」「あしがら」がいます。呉にはイージス艦はいません。

 横須賀にあたご型が来ている時に、取材に行ったのかどうかは分かりませんが、停泊してる様子は、佐世保基地でも舞鶴基地でもない雰囲気でしたので、取材場所は横須賀基地じゃないかなと推察します。(違ってたらごめんなさい~)

 ついでに余談ですが、SEEDでは艦から降りる時に、ちゃんと「上陸」と言っています。小さなことですが、ちゃんと監修されていない場合は「下船」と言われる場合が多いので、脚本もちゃんと書かれていると思います。

✔潜水艦について

 個人的にすごく面白い発想だなと思ったのは、潜水艦のSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)から、モビルスーツが出てきたところです。どれだけでかい潜水艦なんだよ?とツッコみたくはなりますが、なるほどそう来たか!と結構面白かったです。

 アークエンジェルのモビルアーマーの存在に、ザフトの潜水艦が気づいて潜水艦内で「まずい!」という空気になった場面がありました。これは当然で、潜水艦にとっての天敵は航空機なので、絶対に自分たちの存在と位置を気取られるわけにはいかないからです。

 海上自衛隊の潜水艦は「海の忍者」と言われ、潜水艦の隠密行動性をよく表しています。潜水艦の存在意義は、絶対に敵の潜水艦、水上艦艇、航空機全てに存在を悟られない事にあります。その中でも、万が一見つかってしまった場合、潜水艦から航空機を攻撃できないので、航空機は天敵なのです。

 潜水艦は自分の存在は知られずに、敵の存在を先に探知することに意義があります。海上自衛隊の潜水艦は特にそれは見事で、その存在を先に探知するのは水上艦艇最強のイージス艦ですら困難です。(イージス艦のレーダーも海上でしか使えないので…)

 アークエンジェルが航行中、潜水艦を警戒する時、CICいる推測員が必死に音を聞き分け、敵が現れた時「音紋を照合!」と言うシーンがあります。ここでまさかの「音紋」というワードが出てきたことに驚きました。

 以前、Dr.STONEの羽京くんを取り上げた時に、潜水艦のソナーマンについて書きましたが、ソナーマン(水測員)は、指紋と同じように、海中の中の様々な音には固有の「音紋」があるので、それで、敵艦を判断したりします。

 正直、アニメで「音紋」というワードはあまり聞いたことがないので、ガンダムSEEDの制作スタッフは、相当丁寧に海上自衛隊に取材をしていて、自衛隊側も結構しっかり協力してくれていただろうことが推察できます。

✔ガンダムSEEDの人気の理由の一端

 最初にも書きましたが、ガンダムSEEDはシリーズの中でも屈指の人気作品です。その理由は、美形キャラも多く、人気声優も多く、女性支持も取り込めたからということもあると思います。

 ですが、そうだと分からなくても、戦闘シーンにおける映像以外の部分、戦闘用語や軍組織という部分がそれまでのアニメ作品よりはちゃんと調べて、リアリティを感じられるように創ってあるように思いました。

 知識がないとそうだとは分からないものですが、「どうせみんな分からないから」とないがしろにして、知識が浅い方に合わせてよい作品ができたためしはありません。かならず、安っぽさと薄っぺらさが出ます。

 気付く人は少ないかもしれない、でも、そこを丁寧に作りこむ!というプロ意識の高さこそ、作品のクオリティを上げる大事な部分だと、みみのすけは思っています。人気作品のガンダムSEED、そこに気づいていなかった方は、ぜひ、こういう視点で見てみても面白いのではないでしょうか。

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